76 / 87

番外編:貴方に逢えたから20

「気持ちいいと言ってるくせに、毎晩2回しか抱いてくれないよな」 「それは、っ!」  誤解をとこうと慌てて口を開いた僕の唇に、健吾さんは人差し指を押し当てて止めた。  目に映る顔は表現しがたい微妙な表情になっていて、余計なことを言ってしまったら、間違いなく傷つけてしまうと思えるものにも見えた。ここは慎重にならなくてはと考慮し、いいわけを飲み込む。 「夢の中じゃ、朝まで抱いてくれたんだ。実際この躰よりも創造主の作った躰のほうが、いいのかもしれないが……」  縛られた両手を駆使して、なんとか起き上がる。プラチナブロンドを乱したまま放心している健吾さんの肩に、そっと顎をのせた。  こんなときなのに、抱きしめられないのはすごく歯がゆい。 「記憶がないから比べることはできませんが、僕は健吾さんが一番だと思ってます」 「敦士……」 「2回でストップしてるのは、健吾さんの躰が大事だからです。僕のシたい気持ちに、無理して付き合わせるわけにはいかないと思いまして」 「そうだったのか。良かった――」  健吾さんは、両手を拘束している腰紐を解きだした。肩から顎を外して手元を見つめていたら、解放された手首を指先で撫でる。愛おしそうに何度も撫でながら、ゆっくりと顔を上げた彼と目が合った。  安堵に満ちたまなざしに射竦められただけで、さっきよりも躰に火がついてしまう。 「健吾さん、僕は」 「このまま俺を抱いてくれ」  細長い両腕が首に絡みついて、密着する部分を一気に増やした。触れ合う素肌が思いのほか熱くて、自然と息が乱れてしまう。 「健吾さんを抱くって、もう抱き合っているのにですか?」 「こんなものじゃ足りない、抱きつぶして。夢の中で抱き合った以上に、俺を抱いてほしい」  告げられた言葉が刺激的すぎて、ごくんと生唾を飲んだ。  もっと抱き合いたいという気持ちと同じくらいに、健吾さんを大事にしなきゃという想いもあって、毎日心の中で葛藤を繰り返していた。

ともだちにシェアしよう!