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第5話
気にしてなさそうだったが弁償した方がいいのだろうか、αはお金持ちが多いけどシワの制服は恥だと思ってそうで…
……偏見みたいになってしまった、そんな人ばかりではないのは十分分かってるんだけどな。
そこで足元になにかがある事に気付いた…そして目を見開いた。
俺のより形が少し違うけど、透明なプラスチックの容器。
……その中で目立つ色をする青と白のカプセルを…
銀髪の人は俺が下を向いて固まってるのを見て下に目線を向けた。
落としてしまった事に気付き、特に慌てる事もなく普通に薬入れらしきものを拾う。
あの薬は毎日見飽きるほど見ている………もしかして、俺と同じ…
「…その、薬…貴方の?」
「あぁ」
銀髪の人は何の迷いもなく当然のようにそう答えた。
こんな誰がどう見ても完璧なαの中のαみたいな人が、Ω…?
もう一人の茶髪の人は銀髪の人が着いてこない事を不思議に思い戻ってきた。
この人は銀髪の人がΩだと知っているのだろうか。
小さな容器をズボンのポケットに押し込むのを呆然と見ていた。
茶髪の人は銀髪の人の肩に腕を回して身を乗り出していた。
「なーにしてんの?」
「アレ見て…何故か壊れた」
「え……あれ、おめ…Ω??えぇ…じゃあ、ど…どういう」
「ぷっ、あっははは!!!」
俺を指差して茶髪の人はバシバシと銀髪の人を叩いて爆笑していた。
銀髪の人は「痛い、やめろ」と訴えているが全く聞いていない。
ツボに入ったのかなかなか笑うのを止めてくれない…俺、なにか変な事言ったか?
茶髪の人はまだ少し笑っているが、俺の前にあの容器を見せた。
銀髪の人のポケットから板の間にか拝借したのだろう。
少し振ると薬同士がぶつかりカシャカシャと音を響かせる。
俺が見慣れたあのカプセルだ、見間違う筈はない。
茶髪の人は銀髪の人がΩだと知っている様子だった。
しかし俺にもバレたのに何故銀髪の人は焦らずずっと無表情なんだ?
茶髪の人もいい加減笑いを引っ込めてほしいものだ。
「あー腹いてぇ、久々に爆笑した!」
「……」
「そんなに睨まないでよ、可愛い顔が台無しだよ?」
茶髪の人の軽そうな言葉に俺も無表情になり黙る。
誰が可愛い顔だ、俺の顔は普通だけどちゃんと男だ。
Ωは女性的っぽく思われていて男でも中性的や可愛い顔の奴がいるらしい。
しかし俺はαの時にも散々言われたβ顔だ…つまり何の特徴もない。
…本当の事だからこそ自分で言っててなんか悲しくなってきた。
だから男らしい顔立ちのαから見たらΩやβは可愛く見えるだろうな…全然嬉しくないけど…
「コイツ、コレがないと倒れちゃうんだよ」
そりゃあそうだ、Ωの必須アイテムなんだから…
ヒートを体験した事がないからまだ分からないがヒートは苦しいという。
番がいないΩは特に地獄だとテレビで見た事がある。
だからそんな地獄から解放されるための抑制剤だ。
しかし初対面の俺から見てもなんか仲がいいな、この二人…
三人目のΩはさすがに考えにくい、もしそんな事があったらいよいよ政府が実験以外のなにかをしようとしてるように思えるぞ?
となると茶髪の人はαとなる……Ωとα…もしかして、この二人…
「もしかして、お二人は運命の番ですか?」
「え…何それ、冗談でも言わないでよ…怒るよ」
「…ごめんなさい」
急に茶髪の人から表情が消えてマジのトーンで怒られてしまった。
さっきまで明るかったのに鳥肌が全身に立つほど怖かった。
どうやら俺の考えすぎで二人は番ではないようだ。
だとしたら普通に親友とかだろう、いいなぁ親友……友達はいるけど親友と呼べる相手に会った事がない。
気を取り直してまた茶髪の人は表情を和らげてニッと笑った。
よく喜怒哀楽が変わる人だな、銀髪の人はずっと無表情だけど…
「響くんは偏食が過ぎるんだよ!もっと栄養バランスを考えてだなぁ」
「お前だって甘いもんばかり食べて栄養偏ってるだろ」
「甘いは正義だよ響くん!俺特製のプリンを君にあげよう!」
「いらねぇ」
二人の会話に首を傾げる、何だか話が脱線していないか?
抑制剤の話だったのにいきなりプリンの話になっているぞ。
…うーん、俺…蚊帳の外だし…帰ってもいいかな、お腹空いたし…
でもΩの話は聞きたい…俺はどうすればいいんだ!
そんな事を一人で迷って考えていたら茶髪の人が俺の困った顔を見て本題を思い出したように手を軽くポンと叩いた。
プリンの話からどうして地球は青いのかという意味の分からない話になっていたから助かった。
「つまりこれ、似てるよね?って話だよ」
「…えっと?」
「Ωのヒート抑制剤だと思ったんでしょ?」
「はい」
俺が考えていた事を素直にそう答えて不思議そうに茶髪の人を見る。
何だかその聞き方だとまるでコレはそうじゃないと言ってるように思えた。
え……もしかして、違うのか?でも俺が持っていたやつとそっくりなんだけど。
ニヤニヤと楽しそうに笑う茶髪の人が俺の瞳に写る。
茶髪の人の綺麗で完璧な口の形が開き声を発する。
まるでスローモーションのように脳内で響いた。
「超万能ビ・タ・ミ・ン・剤」
「…サプリ?」
俺がそう言うと、茶髪の人はうんうんと頷いた。
ビタミン剤…まさかの抑制剤とは違うもの、でも見た目は完全に抑制剤だ。
その時俺は銀髪の人が仲間じゃなかった事へのショックより別の事を考えていた。
本当にこんなそっくりなものがこの世にあるというなら…もしかしてコレ、使えるんじゃないか?
譲に薬がバレた、でもサプリだと言い張れば本当に存在する薬だし…誤魔化せる。
友人に嘘を付くのは心は痛いが…誰にもバレたくないんだ。
卒業したら本当の事を話そう、それまではごめんと心の中で謝る。
俺は薬の詳細を聞くために銀髪の人に詰め寄る。
「何処で手に入りますか!?」
「え?君も偏食なの?ちゃんと野菜とか食べないと……サプリは薬局なら何処にでもあるよ」
「ありがとうございます」
答えてくれた茶髪の人にお礼を言う、このタイミングで出会えるなんて本当に神様のような人だ。
抑制剤と間違えそうだから買わないけど何処にでもあるなら俺が持ってても違和感ないだろう。
これで何とか譲の疑問を逃れる手が見つかった。
でも、警戒を怠らない…またハプニングが起きるか分からないから警戒するに限る。
茶髪の人は俺が安心している顔をしていたからか不思議な顔をする。
そして忠告するように少し低い声で俺に囁いた。
「でも覚悟しといてよ、ビタミン剤持ってるとΩだって勘違いされるから…こいつも最初は大変だったからねぇ」
ちらっと茶髪の人は銀髪の人を見るが銀髪の人は気にした様子はない。
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