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第6話
俺以外の何人かにもΩだって思われていたのだろう、だから慣れた様子だったのかな。
なんでこの薬を開発した人は抑制剤と同じ色の薬にしたのか謎だ。
薬って同じような形が多いから間違えやすいよなと今はそれに感謝していた。
俺は二人にもう一度お礼を口にしてその場を後にした。
手にはズボンのポケットに入れていたスマホが握られていた。
譲ともう一度話し合うなら今すぐがいいだろう。
スマホの電源を押し、暗かった画面に光が写る。
そしてお知らせを見てつい顔がヒクついてしまう。
そこに写し出された着信を知らせる数字、ぴったり15件と表示されていた。
こんなに短時間にいろんな人から電話が来るわけがない。
電話のアイコンに触れると写し出される登録した名前の着歴。
やはり全て譲からの着信だった、こんなに心配してくれてたんだ。
あんな態度取ってしまったし、申し訳なく思った。
そう思っていたらバイブレーションが手のひらで響いた。
写し出された名前を見て俺は急いで画面をスライドして通話に出た。
耳元にスマホを当てるとさっきまで一緒にいたのに何だか懐かしい声が聞こえた。
『良かったぁ!やっと繋がった!何処に行ったのか心配したんだぞ!』
「…その、ごめん」
『まぁいいや、今何処にいるんだ?』
「裏庭から校舎に戻るところ」
俺がそう言うと譲は『裏庭かぁ…そこは探してなかった』と残念そうな声が聞こえた。
もしかして、俺が譲から逃げた時からずっと探してくれてたのか?
譲に薬を見られた時、てっきり譲はΩを差別している人かと勝手に思い込んでいた。
今朝出会って付き合いも今日だけだったけど譲は素直でいい奴だって分かっていたのになと反省する。
でも、素直だからこそ…この秘密を共に共有出来ないとそう思った。
俺以上に譲は誰に対しても嘘が下手な気がした。
それにあまりにも重いこの秘密を背負わせたくはなかった。
俺は譲と仲直りするために食堂で待ち合わせをした。
今の時間なら食堂に人は少ないだろうと思った。
上級生達は授業が始まる時間だし、こんな遅くに食べに来る生徒なんて俺みたいなよっぽどの理由じゃなければ来ないだろう。
俺は重い足を必死に動かしながら楽しみにしていた筈の食堂に向かって急いだ。
校舎に戻ってきて、壁に貼られた地図を頼りに歩き出す。
そこで食堂と書かれたホテルにあるレストランのようなお洒落な外観の食堂があった。
さすがに金持ちばかりが通うエリート学校の食堂が定食屋みたいな感じだとは思ってはいないが、さすがにドレスコードなしで入って大丈夫か不安になってしまう。
まぁ学校の食堂に制服しかありえないんだけどな。
食堂のドアを開くと天井にぶら下がる大きなシャンデリアがお出迎えした。
クラシックのBGMが流れてリラックスして食事が楽しめるだろう。
俺みたいなどんよりした空気の奴なんて一人もいないだろう。
思った通り食堂内にはほとんど人がいなくて従業員と食後の雑談に花を咲かせている生徒くらいだった。
俺もちょっとだけ音楽に癒されたい気分だった。
「…蒼?」
恐る恐る俺を呼ぶ控えめな声が何処からか聞こえた。
周りを見渡して声の主を探していて、その人物はすぐに見つかった。
まだ戸惑いを隠せない様子で俺の顔色を伺う譲が俺にゆっくりと近付いてきた。
俺はなるべく動揺を悟られないように譲に手を振った。
大丈夫だ、思い出せ…銀髪の人の完璧なポーカーフェイスを…
少しでも俺が戸惑えば作戦がバレてしまうから何でもない事のように振る舞うんだ。
「譲、心配かけてごめんな」
「と、とりあえず座ろうぜ!」
譲と近くにあった椅子に座る、注文はテーブルの横にタブレットを操作して好きな料理を選択して出来たらウェイターが料理を運んでくるシステムみたいで注文をしている生徒を眺めて見よう見まねで俺達もメニューを開く。
…やはりどれも値段が高い、政府も払うのは学費や教材費のみみたいだし食費までは払ってくれないよな。
そうなると仕送りを考えてやっぱり一番安いものを…
真剣な顔で悩む俺を譲はメニューを見ず眺めていた。
「蒼…」と声が聞こえてメニュー表から顔を上げる。
譲はどう言ったらいいか戸惑うような顔をしていたが、苦笑いしながら俺に言った。
「さっきは蒼と話し合わずに酷い事言っちゃったから、お詫びに今日は奢るよ」
「…え、でも悪いし」
「お願いだ、俺に奢らせて」
譲に頭を下げられて俺は友達にそんな事してほしくなくて顔を上げてくれと言った。
譲がそれで気がすむなら俺は譲に奢ってもらう事にした。
一番安い焼肉丼にしよう、金持ち学校にもこんな庶民的なものがあるんだなと驚いた。
数は少ないが俺みたいな一般庶民もいるから当然か。
正直ほとんどの料理が英語で何の食材か分からなくて高い料理は頼む事がないだろうなと思っていた。
料理を頼み、やってくる間の時間…俺は譲に話した。
嘘がバレないように若干下を向いて口を開いた。
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