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第7話
「…ビタミン剤?」
「そう、なんだ…抑制剤と似ててさ」
間違わないように、動揺が声に出ないように俺は譲に話した。
そのビタミン剤は抑制剤に似ているから有名なのか知っているようだった。
俺は薬局とか行かないから分からなかった。
知ってたらもっと上手く出来たのにと悔やまれる。
俺が逃げた理由はビタミン剤をΩの抑制剤だと言われたからだと言った。
ビタミン剤のところ以外は本当だった。
俺は自分がもしかしてΩなのではないのかと疑い、動揺して、そしてパニックになった。
正直こんな事で騙せるか分からない。
でも譲は頷いて納得している様子だった。
「なるほどね、それならそうと早く言ってくれたら良かったのに!俺もΩだって決めてつけてごめんな、ちょっと考えたら分かるよな…俺が薬を持ってた時蒼…気にしてない様子だったし…Ωが抑制剤を知らないなんてあり得ないよな!」
譲はいろいろと繋がったとスッキリした顔をしていた。
どうやら俺の態度が譲を信用させる材料になったそうだ。
俺がΩを知らなかった、あの時αとして譲を見ていたからだったなんて皮肉だな。
でもその結果何とか誤魔化せて良かった。
その時ちょうど頼んでいた料理がウェイターの手によって運ばれてきた。
譲は俺を探し回り空腹だと分厚いお肉のステーキを頼んでいた。
安いだけあって俺の焼肉丼は少々小ぶりだ。
これでも千円したからきっと肉はいい肉を使っているのだろう。
譲にいただぎますと言い箸を持ち一口サイズに持ち上げて口に運ぶ。
ジューシーな肉の旨味と絶妙な甘辛いタレが融合して頬が緩む。
「蒼って美味そうに食うなぁ」
「だって本当に美味いからな」
しかしきっとコレが食べれるのは今日までだ。
正直一食に千円は高すぎる。
確か寮のパンフレットには寮の部屋には自炊用のキッチンがあった筈だ。
今度はお弁当でも作ろうとそう決意した。
食事も終わり校舎を出ると外はすっかり夕焼け空になっていた。
上級生達も授業が終わり部活に行く者や寮に帰る者など様々な人達で外にはいっぱい人がいた。
「あ、またいる」
譲はある場所を見てそう呟いた。
譲の視線を追い苦笑いした。
今朝のΩ集団か、本当に何しに来ているんだろう。
そわそわと周りを見渡すΩ集団、もし…政府に選ばれなかったら俺もあの中に居たのだろうか。
いや…αに自分から近付きたいなんて思わないからいないか、運命の番ならともかく…
その時、Ω集団が今朝と違う行動を取った。
耳に響くうるさい叫び声が聞こえて頭が痛くなる。
女のΩの声なら分かるが男のΩも混じってる、可愛い顔なら声も可愛くなってしまうのか…変声期前みたいだ。
叫びに似た歓声を上げる。
歩いていたα達はΩ達みたいな騒がしい事はしないが一歩引いたところで見ていた。
その瞳は憧れを抱いているようなキラキラした輝きを持っていた。
隣にいる譲でさえ惚けている。
いったい彼らは何にそんな顔をするのか分からず周りをキョロキョロと見渡していた。
そしてその正体に気付き納得した。
ただ歩いているだけなのにとても絵になる二人組が校舎に向かって歩いていた。
Ω集団からは「響様ー!!」「悦様ー!!」と声が聞こえていた。
俺が出会ったあの銀髪の人と茶髪の人だ。
茶髪の人は声に気付き小さく手を振っている。
それにさらに興奮したΩ集団がキャーキャー言っていた。
そして自分に手を振ってくれた、いや自分だと喧嘩を始めてしまった。
まるでアイドルみたいだとあまりにも非現実的な事を目の当たりにして驚いた。
…というかあんなに興奮して、ヒートしないかハラハラする。
銀髪の人は興味がないのかさっさと校舎に入ってしまい茶髪の人も後を付いて行き静けさが戻ってきた。
二人がいなくなった途端に足を止めていた周りは足を動かし始めてΩ達は早々に解散していった。
あの二人目当てでこんなに集まっていたのか、驚いた。
「さすが学園ツートップ、人気が違うな!」
「…譲、あの二人の事知ってるのか?」
「は…?…あー、そういえば蒼、入学式の時完璧に熟睡してたよな」
入学式の時は本当に眠くて最初の理事長の話しか聞いていない。
譲は「あんなにうるさかったのに一度も起きないから死んだかと思ったぞ!」と笑っている。
うるさい?入学式が?いったいなにがあったのかとても気になる。
そして譲は話してくれた、入学式なにが起きたのか。
俺が寝た後、譲は気持ち良さそうに寝る俺を起こすのは可哀想だとそっとしてくれていた。
そして長い理事長の話が終わり、生徒会風紀委員会の挨拶となった。
生徒会のメンバーである5人の男女がステージの上に立った瞬間体育館が湧き上がった。
譲は最初驚いて周りをキョロキョロと見て目を丸くしていたがステージを見ると納得してしまった。
男が惚れる男がいるようにαが惚れるαは本当にいたんだと思ったそうだ。
これはΩならひとたまりもなさそうなほど色気を感じていた。
「生徒会長、如月 響」
「副会長の宝生 悦、皆!よろしくね」
スマートにウインクする副会長にまた歓声が湧いた。
生徒会長が話そうとすると歓声はピタリと止み、まるで練習していたかのようだったみたいだ。
その後書記の双子の男子生徒や会計の女性など見えていない様子で皆生徒会長と副会長に釘づけだった。
俺もそうだったから何となく気持ちが分かると苦笑いする。
そしてさらにその後生徒会が去り風紀委員会がステージに上がった。
皆、歓声からヤジに変わっていったそうだ。
「というわけだよ、凄いよなぁ…あのツートップは本当オーラが半端ないんだよ」
「…いや、それはそうだけど風紀委員会…なんで嫌われてるんだ?」
「えっ、あ…あー…まぁな」
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