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第8話
何だか歯切れが悪いな。
俺の地元の中学でも風紀委員会は厳しくて風紀を取り締まっていた。
生徒ではなく教育指導の先生みたいだと嫌がられていた。
だからここでもそういうのだと思っていた。
譲は「俺もちょっとアレだと思うしなぁー」と言っていた。
そう勿体ぶられると気になる、なんなんだ?いったい。
「はっきり言ってくれ」
「…まぁ蒼もこの学園に居ればいずれ会うだろうしな、なんつーか…風紀委員長…気持ち悪いんだよ」
俺は思っていた内容ではなく口をポカーンと開けて譲を見る。
なんだそれ、風紀委員長が怖いんじゃなくて気持ち悪い?
譲は誰とでも仲良くなれるような明るさを持っていたからそういう感情を抱かないと思っていた。
それとも譲にそう思わせるほど相当気持ち悪い人なのか?
ほとんどの生徒に嫌われてるみたいだし、ちょっと見てみたいかもしれない…風紀委員長。
譲は「顔がじゃなくて、なんか気持ち悪いんだよ!」と変なフォローを入れていた。
「まぁあの生徒会長と副会長を見た後なら劣って見えてしまっただけかもしれないぞ?」
「…そう、かなぁ?」
譲は首を傾げる。
ヒラヒラと桜並木から風が吹き俺達を誘おうと桜が舞う。
それはとても幻想的で、まるで俺達はおとぎ話の中に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。
4月とはいえまだ肌寒く長くこの場所にいたら風邪を引いてしまう。
この話はここで終わりにして誘われるままに歩き出した。
俺の入学初日は一言で表せないほどにいろいろと会った。
俺の真実、いろんな人との出会い、そして今後の事。
俺は、まだ理解していなかった……Ωという性を…
寮は古風な屋敷のような外観だった。
草のツタが壁をよじ登るように伸びていてカラスがコーラスを奏でている。
古びた感じも相まって幽霊の一人や二人居ても可笑しくはない。
つまり雰囲気からして今からお化け屋敷に入りますと言ったような雰囲気だった。
俺、お化けとか雷とか本当に無理なんだって…今でさえ一人暮らしで夜電気消して眠れるか不安なのに…
隣を見ると譲も怖いのか不安そうな顔をしていた。
「い、行くか」
「うん」
「手、繋いだら平気になるかも」
「…うん」
譲に言われお互いの手をしっかりと握った。
どちらのか分からない手の震えを感じながら怪しい屋敷に向かって一歩一歩確実に歩いて行く。
校舎の裏の並木道の先に寮があるとパンフレットに書いていた筈だ、譲に確認したら同じ答えだったから確実だろう。
だからきっと、この屋敷に間違いないだろう。
中に入ると外観ほど古さはなく、広いロビーには何人か生徒達がソファーに座って話していたり歩く姿が見えた。
大理石の床に学園より大きなシャンデリアが天井にぶら下がっていた。
窓はステンドグラスになっていて奥に扉や廊下が見える。
さっきまでの不安は何処へやら、ワクワクした気持ちで周りを見渡す。
譲もそわそわして今すぐにでも探検に出かけたそうな雰囲気だった。
「蒼!どうする?何処から行く?」
「まずは部屋を見たいかな」
「そうだな、えーっとどうやって部屋分かるんだ?」
「もしもし君達」
突然肩を掴まれて耳元で声が聞こえて俺達は言葉にならない叫び声を上げて腰を抜かした。
それを見てニタニタ笑う、全身真っ黒の怪しい人。
黒い髪は手入れがされていない感じにボサボサで黒いくたびれたパーカーを着てフードを被っていて素顔が半分隠れていた。
軽く恐怖で俺と譲は震えながらその人を見ていた。
周りの上級生達は面白そうに笑って見ているだけだった。
これって日常の光景なのか?誰も助けてくれないこの状況で俺達は何も出来なかった。
「その着慣れない新しい制服、新入生だね」
「…は、はい」
「名前は?」
「た、立花蒼です」
「君は?」
「ひぃっ!あ、あぅ…」
名前を聞いてきたから素直に答えたが譲は舌が回らず言葉を発する事が出来ず、「あ」とか「う」とかしか言わない。
人は見た目で判断しちゃいけない、それはΩ差別と同じになってしまう。
脅かした事以外なにかこの人がしてきたわけではないから俺は譲の代わりに譲の名前を伝えた。
すると黒いパーカーの人は自分の腰に手を当ててなにかを取り出した。
じゃらじゃらと音を奏でるそれは鍵の束だった。
よくテレビで管理人や警備員が持っているようなものがそこにあった。
見た目は警備員には見えない。
じゃあもしかしてこの寮の管理人さんだろうか。
「あ、これこれ…はいご入学おめでとう」
そう言ったパーカーの人に鍵を一つ手渡された。
放心状態の譲にも手を開き握らせた。
俺は何も知らず驚いた事を謝った。
いくら怖くてもいい気はしないだろうとそう思った。
するとパーカーの人は「新入生を脅かして怯えさせるのが毎年の楽しみだから気にしないで」とケタケタと笑っていた。
笑い方が独特というかなんというか、ちょっと怖く感じた。
「この寮は一人一人生徒のプライベートを守るために部屋の鍵は入学説明会の時に取った指紋なんだよ」
「…そういえば指紋をなにかスキャンしてたな…じゃあこの鍵はなんですか?」
「指紋認識するタッチパネルを開く鍵だよ、部屋一つ一つ鍵が違うからね…ちなみに鍵が開いても部屋主以外の指紋をタッチパネルが認識したら僕に知らせられるから悪さはしないでね」
「それ以外なら犯罪以外なら自由に過ごしてくれていいよー」と言い管理人さんは歩いて何処かに行ってしまった。
管理人が居なくなったところで譲はやっと我に返った様子で立ち上がった。
俺も立ち上がり多分聞いていなかった譲に話した。
自分の指を見つめる譲に俺も自分の指を見る。
指に少しでも傷があったら認識出来ないからな。
入学説明会は大きなホールで、行われていたから校舎を見たのは今日が初めてだった。
指のスキャンなんて何に使うかずっと分からなかったがようやく分かった。
鍵には部屋番号のシールが貼られていて、俺の名前と「盗難防止に番号を覚えたらこのシールを分からないように破り捨ててね」という注意書きが書かれていた。
もし鍵を落とし部屋番号と名前が分かったらタッチパネルに鍵を付ける意味がなくなるしなと思いつつ無くしたら一生持ち主が分からなくなるなというデメリットがあるから絶対になくさないようにしようと思った。
譲と部屋を確認し合う。
譲は四階の廊下の奥の角部屋で俺は二つ離れた場所だった。
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