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第10話

スポーツジムとシンプルに書かれた看板の下の自動ドアをくぐる。 するとそこには広々とした空間が広がっていた。 いろんな器具があり、がっちりした人達が大半を占めていて爽やかな汗を流していた。 「すげー…」 「あ、あぁ」 「あれ?見ない顔だね、何年生?」 突然声を掛けられて驚いて譲と一緒に声のした方向に目を向ける。 するとそこには綺麗な黒髪の男性が立っていた。 このスポーツジムの従業員だろうか、にこりと笑うその顔に見惚れる。 …さすがエリート学園、顔面偏差値も恐ろしい。 まぁ俺みたいな平凡が入れたんだから顔面偏差値は関係ないよな。 この人もαなのかな、教師と生徒は全員αだと知っているが従業員までは分からない。 首には社員証がぶらさがっているがマジマジ見ると変だよな。 「俺達一年です!」 「…あー、一年生か…五階は一年生はまだ使えないんだよ、二・三年生になったらまたおいでね」 元気よく自己紹介した譲がどんどん元気がなくなっていた。 なるほど、だから五階は上級生しかいなかったのか。 俺達はジムから出て五階の探検は呆気なく終わった。 今の時間ならエレベーターは混んでいないかなと思いエレベーターに近付く。 行きも階段でまた階段はさすがに嫌だった。 五階が最後だから皆降りるだろうという考えもあった。 思った通り何人か降りて空になったエレベーターに乗り込む。 一階のボタンを押して壁に寄りかかる。 僅かに内臓が浮き上がる変な感じがしながら下へ下へと降りていく。 その間に譲は地図を眺めていた。 「えーっと、ロビーは見たから…娯楽室と大浴場とレストランと…」 「そんなに見て回るのか?」 「ん?蒼、疲れたのか?」 疲れたわけではないが娯楽室はともかく、大浴場とかレストランは普通に行くだろうから今見なくてもいい気はする。 「普段行かないところだけでいいんじゃないか?」と提案すると譲はうーんと考えた。 そしてエレベーターが止まり、人が入ってきた。 4階で止まるから一年生だろう。 エレベーターはなかなか進まず一階ずつ止まり、エレベーター内はあっという間にぎゅうぎゅうになり息苦しくなった。 譲も見えなくなった、人の群れに押されてエレベーターからつまみ出されていなければいいが、本人が見えないんじゃ分からない。 そして一階で皆降りるから流されるように俺も降りた。 思いっきり深呼吸して一息つく。 周りを見渡し譲を探すと床に寝そべっている男がいた。 後ろ姿からして譲だろう。 「譲、大丈夫か?」 「…うっ…ちょっと踏まれた」 譲の腕を掴み助け起こすと苦笑いしていた。 エレベーターはもう使わない方がいいなと俺と譲はそう誓った。 気を取り直して娯楽室のある方向に歩いていった。 娯楽室はロビーの談話室スペースの少し先ある。 娯楽室に入ると、薄暗い空間に落ち着いたBGMが流れていてバーのような雰囲気があった。 でもカウンターで出されているものはソフトドリンクオンリーのようだ。 ダーツやビリヤードなどの遊び場があって全体的に大人の雰囲気を感じた。 俺達はそっと娯楽室を後にした。 …ちょっと俺達には早すぎたな。 「じゃあ次は…」 そう言った譲の腹が豪快になった。 腹を擦りながら顔を赤くする譲に苦笑いした。 もう腹が空いたのか?学園の食堂に行ってから三時間ぐらいしか経ってないのに… 譲に「食堂行くか」と言うと嬉しそうな返事が返ってきた。 食堂に入ると学園の食堂と同じ内装をしていた。 夕飯時だからか結構賑わっていた。 席は空いてないかと不安だったがちょうど席を立つ人が見えてそこに座る事にした。 座り、メニューを開き譲は考える。 俺はお腹空いてないし軽いものにしようとデザートを頼む事にした。 甘いものは嫌いではないが最近あまり食べていなかったな。 そこで「5つ星パティシエ監修極上プリン」という文字が目についた。 ……今朝、プリンがどうのこうの聞いたからだろうか…何だかプリンが食べたくなってきた。 「譲は決まったのか?」 「うーん、夜はがっつりがいいからステーキかな…蒼は?」 「俺はプリンにしようかな」 そう言うと譲は目を丸くして驚いていた。 俺が甘いものを食べるのはそんなに可笑しいか? でもやっぱり食べたい、今の気分はもうプリンだから… タブレットを操作して頼み料理が来るのを待つ。 譲は俺をジッと見つめていた。 うっ……そんな不思議がられると不安になるだろ。 「……そんなに変か?」 「え…あ、いや…そうじゃなくて…プリンだけでいいのかと思っただけだ」 そっちか、良かった…とホッとした。 今はなんか食欲が出ないからプリンで十分だ。 俺なんかより譲の腹がステーキを食べるだけの量が空いてる事に驚いている。 ……よく食えるなと感心する。 待ってる間他愛もない会話をしていてウェイターが料理を運んできた。 こ、これが極上プリンか…金持ちが食べるプリンだからか何だか輝いて見える。

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