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第11話

「食わねぇの?」 「た、食べる!」 プリンをジッと見つめて食べるのもったいないなと思っていたらもう既に食べ始めている譲が口をモゴモゴしながら聞いてくる。 譲は食べないなら自分がプリンも食ってやるという勢いだったので慌ててデザート用の小さなスプーンを手に持つ。 とろけるようにすっとスプーンを飲み込み掬う。 きっと材料も一流のものを使っているのだろう。 ごくっと緊張しながら一口口に入れる。 下の上で水のようにとろけて頬も緩む。 う、うまい…甘いカスタードにほろ苦いカラメルソースが絶妙で今まで食べたプリンの中で一番美味しい。 一口一口堪能しながら食べる。 今後自炊するなら食えなくなるな、いや…デザートぐらいなら…うーん。 幸せな食事タイムは譲の「…もう、食えん」という苦しそうな声と空の皿を見て終わった。 食堂という名のレストランを後にして、譲を支えながら歩く。 譲は少し部屋で休むと言っていた。 この後風呂に行こうと思っていたが譲がいないとちょっと不安だから今日は部屋の風呂を使おう。 幸い一人一人の部屋に風呂が完備していて良かった。 譲の部屋の前に行き譲と別れ自室に戻った。 今日は疲れたし、風呂入って寝るかな。 「……ん?」 何だか変な気がして周りを見た。 しかし特に誰も怪しい人はいなかった。 ……気のせいか、見られてるような感じがしたが…自意識過剰だったか。 そう思い部屋のドアを開けて中に入る。 明日は休めと母は言っていた。 ……ヒートが起こる危険性が高いからだ。 譲に伝言は何だか申し訳なく思い、今スマホを開き学校に電話した。 ずる休み…だよな、ヒートなんて学校が知るわけないし… 入学早々休むのは気が引ける…今日俺が薬を溶かしたせいだからな。 遅れないように部屋で自習勉強しよう。 電話をすると担任ではない人が出て伝言を伝えて切った。 自分の首筋に触れる。 やっぱりむき出しは怖いな、かといってΩの首輪とか…自己紹介してるだけじゃないか。 着替えを取るために自室に入り、ふと机の上に起きっぱなしにしていたものが目につく。 そういえば置き場所に困ってそのままだった。 白い透明の救急箱の蓋を何となく開ける。 そこには風邪薬とか絆創膏とか消毒液とかぎっしり詰まっていた。 その中に包帯が見えた。 ……この包帯…使えるかもしれない。 首に巻いて寝違えたとか何とか言えば誤魔化せるかもしれない、長くは続かない嘘だがシャツのボタンを上まで止めればバレにくい…と、思う。 とりあえずやってみなきゃ分からないから包帯を取り出して後の救急箱は机の引き出しに入れた。 後の事はそれから考えよう、焦って失敗するより余裕持たなきゃなと一人で納得する。 着替えを持ち、部屋を後にした。

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