12 / 19
第12話
ーーー
「…っ、は…あ、くぅっ…」
嫌な汗を掻き耳を塞ぎたくなるほどの妙に熱っぽい吐息が口から漏れる。
今の自分の顔は見たくなくて確認していないがきっと酷い顔をしているのだろう。
酷く……いやらしい顔なのだろう。
遠くの方で「なぁ、なんか匂わねぇ?」という声が聞こえて顔を青くする。
ヤバい、バレてしまうっ…!!
こんな事になるくらいならやめておけば良かったと今さらな後悔が押し寄せる。
俺が何故こんな事になっているかというとそれは数分前に遡る。
学校を休んだ俺は机に向かって勉強をした。
とはいえ習っている部分しか出来ないけど…
五時間ぐらい勉強して、昼食を買いにコンビニに向かった。
コンビニは特に珍しいものはなく、普通に買い物をして部屋を戻ろうとしたら後ろから声が聞こえてきた。
「…立花蒼くん?」
「え…?」
ずる休みをしているからか余計ビックリして後ろを振り返る。
そこにいたのは見知らぬ人物だった。
中学生くらいの身長に帽子を深く被った少年…全く見覚えがなかった。
…ここって中等部あったっけと首を傾げる。
すると少年はニッと笑った。
帽子のせいであまりよく顔が見えない。
「伝言だよ、荷物が届いてるって…寮管理室だってさ」
「あ、ありがとう」
わざわざ言いに来てくれたのか、いい子だな……年上だったら申し訳ない。
それだけ言い少年は寮の入り口に向かって歩いていく。
何人かとすれ違いになる。
あれ?今日は学校終わるの早いんだな。
まぁいいか、その荷物は多分抑制剤だろうから早く貰いに行こうと寮管理室に向かった。
あの管理人さんにこんなに早く会うなんてなと思いながら寮管理室のチャイムを押した。
「あれ?荷物なら君の友達が取りに来たよ?」
「え?」
譲が?なんで?
訳わからなくて管理人さんは俺の荷物は今手元にないアピールをしていたから仕方なくその場を引き返した。
もしかしたら譲、俺が休んだから部屋まで持って来たのかもしれない。
だとしたら行き違いになってるなと思い部屋に向かって歩いた。
その時、異変は突然現れた。
口を押さえてうずくまる。
「…うっ、ふ、んっ…!!」
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!!
急にずくっと下半身が熱くなったと思ったら腹の奥が激しく疼く。
もしかして、これが…ヒート?
早く部屋に帰らなくては…エレベーターはダメだ…なら階段だ。
そう思っていたら奥から人の話し声が聞こえた。
ダメだ、階段は一つ…帰れない。
ヒートの匂いが気付かれたら、おしまいだ。
早すぎるだろ…と自分の不運を呪った。
とりあえず曲がり角に隠れたが、こんな場所…すぐにバレてしまう。
俺は覚悟して目を閉じた。
「ん?なんか匂いしね?」
「え?これヒートの匂いじゃ…誰か連れ込んでるのかよ」
声が匂いの主を探そうと走り去る足音が聞こえて、少ししたら聞こえなくなった。
俺は口を押さえられて声が出せなかった。
誰だ…?後ろにいる奴には俺がΩだってバレているだろう、こんなに近くで匂いを嗅いでいるんだから…
でも、あまり興奮しているようには見えない。
それどころか後ろにいる彼の体臭を嗅ぐと余計酷くヒートが悪化している。
Ωのヒートの匂いはΩには効かない…じゃあ、これはαの…
「お前、Ωだったのか」
「ふっ……んんんっ」
耳元で話さないでくれ、本能がαを求めて暴れている。
苦しい……
ここは何処なんだろう。
いきなり腕をひっぱられてここに連れてこられたけど、真っ暗で何も見えない。
俺、どうなるんだ?…バラされるのか?
それとももっと酷い…
「薬は?」
首を横に振った。
今日宅配で送られて多分譲が持ってる。
でもこの状態でうろつけないし、譲が何処にいるか分からない…部屋にいればいいけど…
Ωってずっとこんな苦痛と戦っていたのか、他人事だったけど…もう他人事ではない。
口を塞いでいた手が離れて、支えるものがなくなり床に座り込む。
身体が震える、熱い…苦しい…助けて…
ともだちにシェアしよう!