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第13話
「ヒートを抑える方法は知ってるか?」
ヒートを抑える方法なんて…ヤるしかないじゃないか。
それだけは嫌だ、こんな訳わかんない状態で知らない奴となんて…
俺の姿が見えてるか分からないが首を横に振る。
しかし、俺にゆっくりと近付く足音が聞こえた。
何の目的か分からず怖くて部屋の奥に避難する。
嫌だ、来るな…俺は…俺だって好きでヒートを出したわけじゃ…
『ヒートのせいだ』
『Ωが悪い』
あぁ…なんでこんな時に嫌な事思い出すんだよ。
テレビの中でαの学校でΩを侮辱する言葉が頭の中で回り、下を向き身体を小さく丸める。
すると俺の視界に影が落ちたと思ったら不意に引き寄せられた。
暖かな温もりに包まれて目を見開き驚いて固まる。
ヒートで苦しいのに、その優しさが今は安心出来た。
…なんでだろう、運命の番ってわけじゃないと思うのに………違うよな?
「大丈夫だ、襲ったりしない」
「……っ、ほん…と…?」
「あぁ、自慰すれば一時的だがヒートが治ると聞いた事がある…一人で出来るか?」
こくんと一つ頷く、ヒートが起きる前はあまり性欲がなくて自慰も数えるくらいしかしてなかったがやり方は分かる。
手伝ってもらうとか無理だ、なら恥ずかしくても一人で処理する。
するとその人は俺から離れて何処かに歩き出した。
その人は俺に気を遣って部屋から出て行こうとしていた事に気付いたのは扉を開けてからだった。
真っ暗だった部屋に光が差し込み、眩しくて少し目を細める。
俺が見たその人の後ろ姿は雪のように白かった。
扉が閉まり再び静かな暗さが部屋を包み込んでいた。
……生徒会長だったのか、分からなかったけど何だか納得してしまう。
初めて、Ωを前にして差別せず助けてくれる人を見た…やっぱりあの人は俺が憧れたαだ。
ヒートにも動じず、紳士的…俺もああなれたら…俺…も…
「ふっ、はぁ…あ、くぅ」
激しく疼き、震える身体を必死に抱き締めて抑える。
違う、もう俺はΩなんだ…ベルトを引き抜き前をくつろげる。
下着の色が変わるほど濡れていて驚いて涙が溢れてくる。
でも、早く抑えないと外で待ってる生徒会長に悪い。
ズボンと下着を下ろして、前の方に手を添える。
自慰なんて気持ちいいと感じた事があまりないから滅多にやらない。
溜まるといけないから機械的に自慰をするだけだ。
たどたどしく動かしているとふと触れた事がない奥が疼いていた。
…え、なんでそんなところが?いや…まさか…そんな…
顔が一気に青ざめて、恐る恐るそこに指を這わせる。
授業で男同士のは習った事があったが…Ωはそっちで自慰しなきゃいけないのか?
嫌だ、やりたくない…そう思っていてもヒートで言う事を聞かない身体は自然と奥に腕が伸びていく。
「あっ、あぁぁっ!!」
指を少し入れただけなのに泣きそうになるほど気持ちが良かった。
あー、ダメなのに…俺、Ωだから前だけじゃ感じなかったのか?
そう思いながら指をどんどん中に埋めていき、ゆっくりと動かす。
指も気持ちいい…もういいや、プライドなんて元からない…バカになった方が楽だ。
処理ではなく、性行為を楽しむように指を突き動かした。
身体が震える、自分の指でこうならαに抱かれたら俺どうなるんだろう。
手がぬるぬるする、いつの間にか終わっていたのか。
…変だな、ヒートは治まった筈なのに涙が止まらない。
俺という存在が浅ましく汚い存在のように思えた。
つい昨日まではαだと思っていたのに、今ではそのαを求めている。
もう誰も見るな、俺を見るな…本当にΩになったんだと現実を突きつけられた。
消えてしまいたい…
そこでさきほどの生徒会長の存在を思い出した。
そうだ、ずっと廊下で待たせるわけにはいかないな。
手を伸ばして汚れていない方の手でドアノブを捻る。
少し大きな音を立てて扉が開くと、安心できる背中が見えた。
「…あの、終わり…ました」
「……そうか」
生徒会長は相変わらず無表情の顔をしていて俺に手を差し伸ばした。
俺を部屋まで送り届けてくれると言ってくれた会長に甘えた。
今日が初めてだったからよく分からず、また帰る途中でヒートしないとも限らない。
それに…今後の事について聞きたい事があった。
会長には俺がΩだって知られてしまったわけだし…
俺がαとすれ違う度にビクビクしていたから壁側に俺を移動して歩いてくれていた。
こんなにいい人で男前で紳士的なαならΩがほっとくわけないよな。
会長って運命の番いるのかな?副会長には全力で否定されたけど…
そんな素振りは見せないけど、そもそもこの学園にはαしかいないから当たり前か。
そんな事を考えていたら俺の部屋の前に到着した。
「じゃあな」
「あ、あの!少し、お話いいですか?」
生徒会長が一生徒に構う暇なんてない事は分かってる。
……でも、これだけは聞きたかった…どうしても…
廊下では話せない、誰かが聞いているかもしれないから。
会長は少し沈黙して考えて静かに頷いた、良かった…断られたらどうしようかと思った。
まさかこんな早くに人を招くとは思わなかった。
そしてドアノブにビニール袋がぶら下がっていた。
俺の買い物袋はずっと手に持っている、じゃあなんだ?
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