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第14話

中身を確認するとそこにあったのは宅配便の小さな紙包みだった。 誰からだろうと差出人を見ると実家の住所が書かれていた。 じゃあこれは昨日話した抑制剤が入っているのか? 譲が預かっていたんだよな、不在だったから譲が置いてったのだろうか。 とりあえずビニール袋をドアノブから外し中に入る。 人を呼ぶなんて思ってなかったから茶菓子とか用意してない。 「…えっと、何もお構いできませんが…」 「それはいいが、早く目を冷やした方がいい」 「え?目?」 「赤いぞ」 そう言われ気付いた、さっき泣いていたからだろうか。 ただでさえ凡顔なのに不細工寄りになったら明日学校行った時に譲に心配掛けるよな。 俺は会長をリビングのソファーに座って待って貰い、備え付き冷蔵庫を開けて何も入っていない中に買ってきたものを詰め込む。 すっかり食欲がなくなってしまった、夕飯に食べようと冷蔵庫を閉めてダンボールを開けて一ヶ月ぶんの抑制剤の袋を取り出し一粒口の中に放り込んだ。 これで何とか今日は大丈夫だろうとホッとした。 買ってきたお茶のペットボトルの蓋を開けて二人分のコップに注ぎ、会長のいるところに持っていきテーブルに置く。 俺はついでに水に濡らしちょっと重たくなったタオルを目元に当てた。 冷たくて気持ちいい……やっと普通に戻ったと安心していた。 チラッとタオルの隙間から見ると会長がこちらをガン見していたからびっくりしてタオルで顔を隠す。 「あの…俺、退学ですか?」 「…は?」 「いやだってαの学園にΩとか変でしょ」 「そう思うなら何故入学したんだ?」 俺は聞きたかった事を会長に聞いた、確かにごもっともです。 でも部外者に政府の話とか出来ないし、どう言ったら納得するだろうかと悩む。 悩んでも今のこの状況があり得ないからどう言っても嘘っぽくなる。 会長は悩む俺を見て「学園側がお前がΩだと知って入学させたなら別に俺からは何も言わない」と一言それだけいい、お茶を一口飲んだ。 もしかしたら会長、俺がΩだって誰かに言うかもと思っていた自分が本当に嫌な奴だなと反省した。 この人は俺の憧れるとても安心出来るαの中のαなのに… 「俺、Ωだってバレたくないんです…変な事に巻き込んでしまいごめんなさい」 「別に巻き込まれたとは思わない、ヒートさえどうにかすれば何とかなるだろ」 他人事のように話す会長に深刻さはなくて、俺もホッと一安心した。 そのくらい無関心の方が俺も緊張しなくていい。 不安はなくなり一息つき、お茶を喉に流し込む。 少しの間、不思議な空気が部屋を包み込み沈黙が訪れた。 俺がどうしても聞きたかったのはここまでだからこれからの事は考えていない。 滅多に話せない人みたいだし、どうせなら疑問に思っている事を聞こう。 はっきりしてる人だから答えたくない質問には答えないだろう。 「会長って運命の番っているんですか?あ、もしかして昨日門前にいたあの中に…」 「…あぁ、たぶん」 なんか会長とコイバナって妙に緊張するなぁと意外と楽しんでいたら会長からの予想外の言葉を聞いた。 やっぱりこんなに素敵な人ならいるよな…って、え?たぶん? 運命の番なのに自分で分からないのか? 俺は運命の番が現れた事ないから分からないが本能でこの人だって求めるものではないのだろうか。 会長は何故か首を傾げて考え込んでしまった。 悩むほどの事を言っただろうか、運命の番がいるかいないかの単純な話だと思う。 「俺の番は悦が調べただけでも157人いるらしい」 「……はい?」 えっと、ちょっと待って……番って一人だけじゃないの? というかΩ自体世界中で10万弱しかいないのにそんな事あり得るのか? 俺とは逆のαサイドで実験をしてるようにしか思えないが、αの実験の理由が分からない。 それに本人は首を傾げているから本人もなんでそんなにいるのか分からないようだ。 ……そんな事が現実にあるのか?確かに会長はΩの理想そのものだろうけど… 副会長が調べたのか、大変だったな…くらいの感想しか出ない。 「えっと、つまり…」 「俺はαだと分かった小学校から今までいろんな奴に運命の番と言われてきたから誰が本物か分からない」 「も、モテモテですね…生徒会長自身はどうなんですか?」 「…あまりぴんとこない」 じゃあその157人の中には運命の番はいなかったんじゃないかなと思う。 運命の番って死ぬまで離れない魂の繋がりって聞くし、本能が求めた人が運命の番なのだろう。 もしかして門前で待ってた人達にも言われてそうだな。 確かにαの中のαだし、運命の番になりたいって思うΩはたくさんいるだろう……お、俺はまだΩだって意識したばかりだから他の事はまだ考えられないけど… 壮絶な人生だったんだろうなぁとは何となく分かる。 またお茶を一口飲み込み、会長はため息を吐いた。 「悦に言わせれば俺はヒート製造機らしい」 「……え、なんですかその怖いものは」 「俺の匂いを嗅ぐとヒートしてしまうみたいなんだ、滅多に嗅がれる事はないから自分から近付かなければ何も怖い事はない」 その話前聞いていたら信じていなかったかもしれないが、少し心当たりがあった。 俺がヒートしていた時、会長の匂いを嗅いだら悪化した。 あの時はただαの匂いだからと思っていたが、普通のΩならヒートが悪化する事はない…きっとあの時の事なのだろう。 ヤバい、この人に近付いてはいけないとジリジリと離れる。 αのフェロモンは勿論あるし、それがΩを引き寄せる事も知っているが…まさかヒートを起こす強すぎるフェロモンが常に出る人は初耳だ。 もし昔のまま学校がα、β、Ωが通ってたらヒートテロみたいになっていたような気がする。 今はこの学園にはΩは一人、俺だけが危ないんだけどな。 「…もしかして副会長も、ですか?」 「悦か?悦は俺の逆だ」 「……逆?」 「アイツはヒートの匂いが効かないんだ、だから花の匂いと同じでいい匂いしか感じない」 ヒートが効かないα、これも特殊なαだと初めて聞いた。 世の中にはまだまだ発見されていないいろんな人がいるんだな。 でも会長も俺のヒートに無反応じゃなかったか? その疑問を言うと会長は「俺は鈍いだけで効かないわけじゃない」と涼しげな顔でそう言った。 そうなのか、でも俺には全く効いていないように思えたが…まぁそのおかげで会長がヒートに惑わされた獣みたいに理性がなくならなくて良かったけど。 お茶を全部飲み干して俺に「ごちそうさま」と言い、会長は立ち上がった。 「じゃあ俺は行く、悦に仕事押し付けて出て来てしまったからな」 「今日はご迷惑掛けてごめんなさい、ありがとうございます」 「………」 「…会長?」 「…響」 「え…?」 「俺の名前、響だ」 「……えっと、響…先輩?」 そう言うと響先輩は満足そうな顔をして玄関に向かった。 ずっと呼んでいたが会長呼びが気に入らなかったのだろうか。 苗字を名乗らなかったからつい下の名前で読んでしまったが良かったのかな。 俺がΩだってバレたり他のΩの響先輩ファンの人に何されるか分からずますますαを演じなくてはと硬い決意を抱いた。 …あ、αにもファンがいるんだっけ…なるべく響先輩には会わないようにしよう、生徒会長だし滅多に会わないだろうし… 秘密を知ったαと仲良くなった、無害そうだし…まぁ大丈夫だろう。 響先輩がいなくなり、部屋が一気に静かになった。 寮に持ち込んでまで生徒会の仕事かぁ、大変だな。 ソファーに寝転がり目を閉じると今日の出来事が思い出される。 早速Ωだとバレてしまって先が思いやられるな。

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