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第16話
※立花蒼視点
翌朝、のそりと重たい身体を必死に動かし起き上がる。
気のせいだろうか、くまのぬいぐるみが俺を哀れんで見ているように見えた。
スマホで譲に今日は学校に行くとメッセージを打ちベッドから出る。
欠伸をしながら寝室を出て台所に向かうと昨日出しっぱなしにしていた薬があった。
今日のぶんはまだだからそれを飲もうと伸ばした手を止める。
そういえば、なんで譲…俺に荷物が届いたって知ってたんだ?
言われないかぎり管理人が譲に言う筈ないよな。
考えれば考えるほど不思議で、その事も譲に聞いてみよう。
そう思い袋の中から薬を一粒取り出して口に放り込んだ。
「おはよ!蒼!風邪大丈夫か?」
「おはよ、うん…平気」
部屋まで譲が迎えに来てくれて一緒に登校する。
昨日は風邪で休んだ事にしていた、心配してくれる譲の優しさに涙が出そうになった。
昨日は学校でこういう事があったとかを話しながら寮を出た。
譲は中学からやっていたサッカー部に入ると意気込んでいた。
爽やかっぽいのが似合いそうだな、俺はヒートが怖いから部活は入らないかな。
他愛もない会話をしていて、そこで薬の事を思い出した。
「そういえば、昨日はありがとうな」
「ん?なにが?」
「荷物、譲が運んでくれたんだろ?」
「荷物?なにそれ?」
つい足を止めると譲も足を止めて首を傾げていた。
「早く行かないと遅刻するよー」という譲の声が遠くに感じられた。
え?譲が知らない?そんな筈はない……そう思うがだんだん自信がなくなる。
じゃあいったい誰が俺の荷物を受け取ったんだ?
そういえば管理人は入寮日の時譲の顔と名前を知ってる筈なのに譲だとは言わなかった。
あれ?俺に荷物が届いてるって最初に言った子…あの子は何故俺が立花蒼だって知って…
何だか知ってはいけない事を知ったような気がして、ゾクッと背筋が冷たくなった。
「蒼?」
「…ご、ごめん…変な事言って…何でもない」
俺は深く考えるのは止めようと無理矢理笑い再び歩き出した。
譲は気になるという顔をしていたがそれ以上何も聞かなかった。
門前には入学式の時と同じようにまたΩ生徒達がいた。
毎日ここに来て自分の学校はいいのだろうかと心配になる。
譲は昨日もΩ生徒達が生徒会の人達をみようとしていた事を教えてくれた。
その情熱は正直羨ましいよ、真似はしたくないけど…
「そういえば昨日Ωが紛れ込んでたみたいで大変だったんだって!寮がちょっとした騒ぎになってたみたいだよ」
「っ!?」
俺のせいだ、本当に申し訳ないと心の中で謝る。
譲は部活を見学して帰ったのが遅かったみたいでその騒ぎは人に聞いただけみたいだ。
結局生徒会のファンが紛れ込んだだけだとなり解決したそうだ。
響先輩がそう言ったから皆深くは考えず信じたみたいだ。
庇うだけじゃなく最後まで俺に疑いを掛けられないようにしてくれた……本当にいい人だな。
譲は紛れ込んだΩを見たかったと野次馬根性で残念がっていた。
そしてなにかを思い出したようにこちらを見た。
「蒼、俺…昼休みサッカー部の人達と飯食う約束してさ」
「もう仲良くなったのか?」
「昨日部活見学した時にな」
「そっか、俺は気にしなくていいよ」
譲は俺と違って高校生活を満喫しているんだな。
俺も爽やかな青春送りたいが、あまり下手な事出来ないよな。
こっそりため息を吐いた、俺がαだったらなんて現実逃避はなるべく考えないようにしよう。
そして、時間は進んでいき昼休みのチャイムが鳴り響いた。
譲は部活の先輩達と昼飯を食べるために俺に手を振り教室を出て行った。
きっとこれからも部活の先輩達と食べるだろうから俺は一人になるな。
譲以外の友達を増やすとΩだってバレないようにさらに気を付けなくてはならなくなるからあまり友達は増やしたくない。
今日は弁当を持ってきていた、食堂は高いから昨日昼飯のついでにコンビニで買った弁当を持ってきていた。
天気もいいし、裏庭で食べようかな…確かベンチがあった筈…
皆食堂にいるみたいだからのんびりと食事を楽しめるだろう。
そう思って裏庭に続く扉を開けたら先客がいた。
「…あ」
「ん…」
ゆっくりと近付くとベンチで横になって寝ている。
普段忙しそうだし、疲れていたんだろうか…外で寝るといくら天気が良くて暖かくても風邪を引きそうだ。
起こさないように空いてるベンチで弁当を食べる事にした。
隣のベンチには規則正しい寝息を立てる響先輩。
たまたま来たところで二人きりになり、なんか変な感じがするな。
あの時出会って会話しなかったら雲の上の存在だったから一生関わらず卒業していたと思うからかな。
響先輩は俺がΩだって知ってるからなんだか楽だった。
気取らなくていいって言うのかな、そんな感じ。
風が暖かくて気持ちがよくて髪を揺らしていた。
食べ終わった弁当をビニール袋に入れて近くにあるゴミ箱に捨てると響先輩に近付く。
寝てて気付いていないだろうけど、今言いたくなった。
これはただの自己満足だし起きてる時に改めて言うからいい、よね。
響先輩の顔を覗き込み、整った美しい顔を前にしてドキリと緊張したが口を開いた。
「ありがとうございます、響先輩」
「どういたしまして」
「!?」
突然声が聞こえてきて驚いて目を丸くして固まる。
響先輩がゆっくりと目を開けて至近距離で目が合う。
あ、響先輩の目ってこんなに至近距離で見た事なかったが綺麗な色だな…赤い。
ってそんな呑気な事を言っている場合ではない!
急いで響先輩と距離を取ると足のバランスを崩してコケた。
俺が転んだ事にも全く動じず上半身を起き上がらせる響先輩を見つめる。
「いっ、いいいつから起きて!?」
「さすがに近くに人がいて気付かないほどの鈍感じゃないからな」
そりゃあそうか、寝ている響先輩にあんな事を言って恥ずかしい。
立ち上がり身体に付いた砂を軽く払い、身なりを整える。
響先輩は俺を不思議そうに見つめて首を傾げていた。
俺の事、変質者だと思われていないだろうか不安だ。
挙動不審で顔を赤くしていたらますます危ない人だと思われると深呼吸で落ち着く。
寝起きで気だるい表情の響先輩を見ないように目を逸らす。
今直視したらヒートしてしまいそうでヤバい状態だった。
「それで、何のお礼だ?」
「…Ωの事誤魔化してくれてありがとうございます」
あのままだったらきっともっと大騒ぎになっていたと思う、俺がΩだと隠しきれなかった…そんな気がした。
響先輩は思い出した様子ですっきりした顔をしていた。
何事にも動じないこの人にバレて運が良かったなと改めて思った。
まだ寝足りないのか響先輩はまたベンチで横になって寝ていた。
これ以上邪魔しちゃ悪いから俺は早々に退散しようと思って歩き出すと俺がいる方とは反対側の方から足音が聞こえた。
何となくそちらを見ると響先輩が寝ているベンチを軽く蹴られたところだった。
ガンッと鈍い音が静かな空間に響き、ベンチが少し軋んだ。
響先輩は睡眠を妨害されたと眉を寄せて睨んだ。
「…睡眠の邪魔するな」
「響だけ逃げようなんて都合良すぎない?」
蹴った本人の副会長も同じように響先輩を睨んでいる。
俺には分からないがなにかあって響先輩は逃げていたって事だよな?
響先輩はもう寝るどころではなくなったからかベンチから上半身を起き上がらせた。
俺は少し気になってしまい去る事を忘れて野次馬のように傍観していた。
響先輩が大きなため息を吐いて面倒そうな顔をしていた。
しばらくの重い沈黙を破ったのは響先輩だった。
「…身内問題に俺を巻き込むなよ」
「響がアレを挑発したから巻き込まれたんでしょうが!」
「……なんか、つい」
「ついで済んだら俺も苦労しないの、本当どうするつもりなのアイ…ツ?」
副会長が怒っている時、ふとこちらを見られ目が合った。
俺の存在に今気付いたのか驚いているみたいだ。
俺は盗み聞きをした後ろめたさで副会長に頭を下げる。
副会長は首を傾げて響先輩に「…あれ、見たことある気がするんだけど、誰だっけ」と言っていた。
響先輩はチラッと俺を見て「お前の落し物を拾った奴だろ」と素っ気なく答えた。
副会長はやっと思い出して、さっきの苛立ちを感じさせないようなにこやかな顔でこちらにやってきた。
「あの時はありがとう!で、なんでここにいるの?」
「お…昼ごはんを食べてて、もう行きます!」
「え?そう?」
俺はもう一度副会長に頭を下げてから逃げるようにその場を去った。
響先輩が俺を見ていて「面倒な事になる前に帰れ」と言っているような感じがした。
確かにΩだって響先輩にバレた時は正直響先輩だったから何もなかったんだ。
言い方失礼だけど副会長はなんか口が軽そうで言いふらさない確証がなかった。
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