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第18話
まぁ確かに考え事をしていたがそんな長く考えていただろうか。
副会長は数あるベンチの中何故か俺の横に座り美味しそうにクレープを食べていた。
副会長がここにいるのに副会長と一緒にいた人は何処に行ったんだ?
周りを見渡してもそれらしい人は何処にもいなかった。
…まさか、どっかに隠れてる…なんてないよな。
落ち着かずそわそわする俺を見て副会長は口を開いた。
「あの子達が気になる?」
「…な、なんとなく」
「俺、人にジロジロ見られながら食べたくないんだよねぇ…だから帰ってもらっただけ」
そういつもだからなのか当たり前のように言い再びクレープを食べ始めた。
俺も副会長を見るのやめようと思い残りのクレープを食べた。
副会長は…あの噂の真相とか知ってるのだろうか。
いやダメだ、仲が悪そうだったし…気になるけどやめておこう。
そう思っていたら最近CMなどで聞く流行りのロックバンドの曲が聞こえた。
副会長がズボンのポケットからスマホを取り出した。
「あ、響からだ」
副会長は何だか楽しそうな顔をして言っていた。
今まさに悪い事を思いついた、そんな子供っぽい無邪気な顔だ。
電話みたいだけど副会長は響先輩の電話を無視している。
するとしばらくしたら音楽が止み切れた事を知らせていた。
副会長はスマホを慣れた手つきで操作していた。
俺は食べ終わったし帰ろうと腰を上げたら突然副会長は俺の肩を抱いた。
「はい、ピース!」
突然そんな事を言われ条件反射で片手でピースを作った。
カシャと機械音が響いて何をされたか分かった。
…写真を撮られた、しかも俺と副会長が仲良く肩を組みピースをしているよくわからない写真だ。
副会長を見たら満足そうにスマホを弄っている。
もしかして今の、響先輩に送るつもりなのだろうか。
もし響先輩が生徒会の仕事中なら怒られる気がする。
「あの、副会長…その写真…」
「ん?あー、君も欲しいの?」
「え…いやその…」
「あ、でも君の連絡先知らないなぁ、交換しよっか!」
そして副会長はとても自然に俺とSNSの交換をした。
…そうか、これがコミュ力高い男の技か…勉強になった。
すぐに例の俺と副会長ツーショット写真が送られてきた。
捨てるのも悪いし、待ち受けなんかにして誰かにスマホ見られたら大惨事になりかねない。
とりあえずアルバムの中に保存したままにしておいた。
副会長は待ち受けにしようとしていたから全力で止めた。
「そういえば副会長呼びってなんか距離感じるなぁー…みーんな悦様悦様呼ぶからさぁ」
「え…そう、ですか?…じゃあ、悦様?」
「………なんかやだな、俺が様付け強要してるみたいじゃん」
「じゃあどうすれば…」
「悦くんなんてどう?距離近くない?」
俺は自分ではハードルが高いと全力で首を横に振った。
年上を…しかも皆が憧れる副会長をくん付けとか恐れ多くて絶対に無理だ。
副会長はとても不満げな顔をして俺を見ていた。
いや、なんでそんな顔されるんだ?俺が可笑しいのか?
とにかくくん付けは絶対に嫌だから他の納得しそうな呼び名を考えよう。
…俺的には響先輩みたいに悦先輩でいいと思うけど、それで許してくれないだろうか。
「…悦先輩、じゃ…ダメですか?」
「なんか微妙…その他大勢みたいじゃん」
みたいじゃなくて俺にとってはその他大勢なんだけど…
拗ねた顔をした悦先輩だけど、呼び名は許してくれた。
皆の憧れの副会長って意外と親しみやすいんだな、初対面の時からいろいろ教えてくれてフレンドリーだったし…
そういえば俺ばっかりが知ってて悦先輩は俺の名前を知らないんだった。
有名人の生徒会と違って一般人だから当たり前か。
俺が悦先輩に自己紹介をすると悦先輩は何やら考え事をしていた。
「じゃあ今日から君は蒼ちゃんね!」
「……え」
「いいじゃん可愛くて!」
気に入ったのか悦先輩は俺に向かって蒼ちゃん蒼ちゃん連呼していた。
悦先輩から俺ってどう見えてるんだ?β顔ではないのか?
初対面の時から可愛いって……うぅっ、男として嬉しくない。
悦先輩のスマホがまた鳴っていた、多分響先輩だろうという事は分かる。
それを合図に悦先輩はベンチから立ち上がった。
あ、もう空が少し暗くなってる…俺も帰らなきゃ…
「じゃあまたね!蒼ちゃん!」
「は、はい…さようなら」
ひらひらと手を振って悦先輩が去っていくのを見送った。
結局関わってしまった、でも悦先輩もいい人そうだという事は分かった。
とはいえ自分からΩだと明かす気はない、もうこれ以上バレないように自分はαだと言い聞かせなきゃと決意をして公園を後にした。
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