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第3話
さいしょに"まちがい"ってことばをしったとき、
ぼくのためにあることばだなぁって思ったんだ。
ーーーーーーーーー
ぼくの家は、"ふつう"じゃないみたい。
それをしったのは、ずっとずっとむかしのこと。
"ふつう"のいえでは、
「おかえり」「ただいま」って、あいさつがあるらしい。
お母さんと、お父さんがいるらしい。
あさとよるに、お母さんのつくった、ごはんがでてくるらしい。
テストで良い点をとると、「すごいね」ってほめられて、けがをしたら、"しんぱい"されるらしい。
周りの会話から知った。
昔からぼくは"ふつう"じゃなくて、友達もいなかったから、それすらみんなの会話から聞いて知っただけだったけど。
ぼくの家のことを知られたらよくないんだろうなってことは、なんとなくわかった。
だって、"ふつう"じゃないものは、よくないから。
『"ふつう"が正しくて、"ふつう"じゃないものは、まちがってる。』
これは、ぼくがここまで生きてきて、唯一のゆるがない真実だっておもえること。
だって、これだけは、ぼくの家にも通じるルールだったから。
『お前さえいなければ!!!!!』
『気持ち悪いんだよ、その顔も、その声も!!!!』
『なんで生まれてきたんだよ!!!!』
『お前なんて、俺の子供じゃねぇよ!!!消えろ!!!』
ぼくの家にいるオトコノヒトは、いつも僕にこういった。
この人が、お父さんなのかなって思った日もあったけど、"おとうさん"って呼んだら、いつも、たくさん叩かれた。けられた。なぐられた。
だから、つまり、ぼくのいえには、お父さんはいないみたい。
お母さん、はわからないけれど、たぶん、死んでしまったみたい。
ーーーーこれも、きっと、僕が、"マチガイ"だったから。
お母さんって、どんなひとだったのかな?
わからないけど、もしかしたら、
すごくすごく優しい人で、
本の中に出てくるみたいに、
僕のことを見守ってくれてたりするのかな?
……これは、ただの僕のガンボウ。
だから、もしかしたら本当は、あのオトコノヒトみたいに、僕のこと憎んでるかもしれない。
だけど、死んじゃったから。
本当のことはわからない。
それに、死んだ人は空の上からみんなのことをやさしく見守ってるのよって、学校で先生がいってた。
だから、空は好き。
たぶんそこは、優しい世界なんだろうなって思えるから。
だけどね、こっちの世界は息苦しい。
"ふつう"のひとでつくられた、
"ふつう"のひとのための世界。
なのに、ぼくは"マチガイ"で、つまり、"ふつう"じゃない。
だから、精一杯"ふつう"のふりをして、静かにすごさないとだめ。
しゃべっちゃだめだし、この眼の色を人に見せてもだめ。
この世界のことは、"マチガイ"な僕の外側にあること。
"マチガイ"な僕と、"ふつう"が交わったりしたら、ぼくの家みたいに壊れちゃう。
ーーーーーーーーだからぼくは、"ふつう"のひとがいない、青空の下でだけ、ぼくでいられる。
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