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第5話
ーーーーー午後11時。
真っ暗な部屋の中で、僕は一冊のノートを持ったまま立ち尽くしていた。
………さて、どうしよう…。
あのとき。
『ちなみに、お前に拒否権はねぇぞ。これは、今日授業中に寝てたぶんの、課題だからな。ほら。』
先生が、そう言い終わった瞬間、最終下校のチャイムが鳴り響いて。
『ほら、もう時間も遅いし、帰れ』
そう言われて、しぶしぶ、ノートを手に立ち上がり、帰ろうとすると。
『……まぁ、どうしても嫌ならそのまま適当に使っていいぞ。ただ、もし、少しでも俺と話してくれる気があんならさ、』
いつでもいいから、ここにきて、そのノート見せてくれよ。
そう言って、僕の頭をふわりと軽く撫でてから、じゃーなと先生は悪戯っぽく笑って見せた。
ーーーーーそして、今に至る。わけなのだけれど。
こんなことはじめてだから、どうしていいのかわからなくて。
……先生と、話したくないと言ったら嘘になる。
正直話してみたい。
けど。
僕が"マチガイ"だって知ったら、先生もやっぱり僕のこと、嫌いになるのかな?
……それとも、壊れちゃう?
どうしよう。
話しちゃ、ダメで、目を見られたら、ダメ。
この2つは、はっきりしている。
けれど、それ以上のことはわからない。
書くのって、どうなのかな…。
でも、課題ってことは、宿題や、テストと変わらないって考えていいのかな?
………わからない。
から、書いてみて、やっぱりダメだとおもったら、わたさなければ、いいんじゃない?
うん、そうだ。
"課題"なんだし、一応やっておくべきだしね。
…こんなの言い訳だってわかってるけど、つまり、それは、僕がそのくらい先生と話したいって思っているということで。
………ほんとに、ふしぎなひとだなぁ。
ほんの少し、先生のことを考えただけで、こころがぽかぽかする。
こんな気持ち、今までは歌にしかかんじたことなかったのに。
……よし。
おもいきって、ノートの表紙を開いてみる。
「………?」
真っ白だと思っていたそこには、すでに文字が書いてあった。
でも、今気付いたのだけれど…。
暗すぎて、文字がよめない…!
電気をつけようにも、ここ数日、なぜか、電気がつかないのだ。
ぼくがしらないうちに、電気のつけ方がかわっちゃったのかな?
もしそうなら、オトコノヒトが電気をつけるのをみたら、真似すればいいのだけれど。
最近オトコノヒトは、ほとんどここに帰ってこない。
つまり、どうしようもないわけで。
うーん、何か照らすもの、ないかな…?
こんなとき、ケイタイがあれば便利なのかもしれないけど、あいにく僕はもっていない。
キョロキョロと周りを見渡してみるけれど、やっぱり何もないみたい。
……そもそもこの家のなか自体が、からっぽに近いんだけどね。
冷蔵庫と、洗濯機、電子レンジと少しのお皿、そしてタンス。
そのくらいはある。でも、そのくらいしかない。
…………しょうがない。明日の朝見よう。
そうと決まれば、さっさとお風呂に入って寝てしまおう。
待ち遠しい明日の朝を早く迎えるためには、早く寝るのが、きっと、いちばん。
それに、最近はオトコノヒトがあまり帰ってこないから、ゆっくりシャワーを浴びられるのだ。
今回も、もう一週間ほど、姿を見ていなかった。
冷蔵庫のなかに入っていたコンビニ弁当も、もう今日でなくなってしまったし。
明日からどうしようかな…?
……わからないけど、まぁ、どうにかなるよね。
と、そう思ったのだけれど。
サァァアア
「………っくしゅっ」
、
ーーー今日は、いつまでたっても、シャワーからお湯はでてこなかった。
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