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第6話

「………っくしゅん」 くしゃみで目が覚めた。 ……………さむ、い…? 布団にくるまっているはずなのに、感じるのは、体の芯から凍ってしまいそうなほどの寒さ。 確かに今は真冬だけど、ここまで寒かったっけ…? 昨日水のシャワーを浴びたから、その影響がのこってるのかな。 ガタガタ震えながら目を開けると、部屋には待ち望んでいた光がさしこんでいた。 これでやっと交換ノートが読める。 その思いだけでどうにか布団から這い出る。 ………何てかかれてるんだろ? どうして喋らないのか、とかどうして屋上にいたのか、ってあたりかなぁ… だとしたら、ちょっと憂鬱だな… ノートのある場所まで、ほんの数歩しか離れていないのに、体が思うように進まない。 それでもどうにかたどり着いて。 寒さからか、それとも不安からか、小刻みに震える手で、そっとノートを開いた。 ………え? ノートを開くと、書かれていたのは予想とは全然違っていて。 『屋上で、突然怒鳴ったりして悪かったな。 もしかして、綺羅は空が好きなのか?』 この2つだけが、少し荒いけれど、でも丁寧な文字で綴られていた。 ……………拍子抜け。 ふつう。とっても、すごくふつうなこと。 こんなの、わざわざノートに書かなくても、口で言えばいいのに。 質問だって、はい、か、いいえ、の2択で事足りるもので。つまりは、直接聞いても、僕が首を振るだけで解決することで。 だから、わざわざノートを用意する必要なんてないのに。 それなのに、こうやって、ノートを用意してくれた。 それは、きっと。 僕が伝えたいことを、"僕の言葉で"伝えられるようにってことだよね。 …………あたたかい。 どうしてかな。 さっきまですごく寒かったはずで、今だってもちろん"寒い"のに。 こころがすごくぽかぽかして、先生にあいたいなって、ただただそう思った。 ねぇ、先生。 僕は今はじめて、"話すことのできる"声を持ってないこと、悔しいって思ったよ。 僕が"ふつう"のひとだったら、この想いを、感謝を、当たり前に、直接、伝えられたのにね。 でも、やっぱり喋ることはできないから。 書くくらいは、いいよね……? そうしてぼくはうまれてはじめて、 "人に向けた"文字を書いた。 『大丈夫です。気にしてません。 はい。空、好きなんです。 それから、先生の眼も、空みたいで好きです。』 たった三行の言葉。 簡単な返事しかかいてない、なんの面白みもない文章。 ところどころ、ぶかっこうに震えている、お世辞にも綺麗とは言えない字。 ーーーーそれでも、今まで書いたものの中で、一番好きだって思えた。 そこでふと我に返って時計をみると、もう時間がギリギで。 慌てて準備をして、それから、 …ノートを鞄にいれて。 重い足を引きずって学校に向かった。 寒いし、 体は上手く動かないし、 鞄もずっしりと重く感じる。 だけど、心だけはやっぱりとてもとても軽くて、あたたかかった。

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