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第11話

ーーーー期待なのか、不安なのか。 それとも熱のせいなのか。 ドキドキと脈打つ心臓を抑えて、先生の答えを待つ。 「お前の言う、"壊れる"の意味はわからねぇけどさ、」 ……ドクドク 「俺さ、お前の声、ずっと前から知ってたよ」 そしてまたしても、先生の答えは、僕の予想の斜め上をいくものだった。 「…………?」 ずっと前から知ってた……? 「綺羅さ、よく屋上で、歌ってただろ」 その言葉に、ギクリとする。 ……そういえば、先生とはじめて会ったの、屋上だった。 どうして、聞かれてるかもしれないって、そんな簡単なことに気づかなかったんだろう。 「俺、静かな場所が好きだから、よく屋上にいくんだよ。ほら、給水タンクの上っつったら、わかる?」 こくりと頷く。 僕がよく歌っているところより、一段上にあるのが給水タンクだ。 あんなところ、用事もないし、気にしたこともなかった。 「あそこ、俺が教師はじめてからの、お気に入りの場所だったんだよ。立ち入り禁止だから、誰も来なくて静かだしな。だから、最初に人が来た時は、驚いた」 気まずくて、目をそらした。 ……まさか、ピッキングで入ったなんていえない。 「はじめて綺羅がきたときさ。俺、いつもどおり、給水タンクの上で寝てたの。そしたら、突然すっげぇ綺麗な歌声が聞こえたからさ、驚いた」 そう語る先生の目はキラキラ輝いていて。 だから僕は、それが先生の本心なんだって信じられた。 「しかも、すっげぇ楽しそうに歌ってるから、邪魔しちゃ悪いかと思ってよ。ずっと隠れてたんだ。だからさ、あの声が綺羅の声だって気付いたのは、俺がお前を怒鳴った時。割と最近だな」 そういうと、先生は未だに握ったままの僕の手を、キュッと握った。 「あの日はさ、静かになったから、もうお前帰ったのかと思ったんだ。で、下見てみたら、屋上の柵の上なんかに座ってるから、びっくりしたぞ。…空が好きなのはわかったけど、危ないから止めろよ」 そういって、本当に心配そうにこっちを見るものだから。 大丈夫なのになぁって、思うけれど、こくりと頷く。 すると先生は、満足気に笑って、よろしい、と頭を撫でた。 「でも、まぁ、それから、お前が気になりだして。 お前、屋上ではあんなに楽しそうな声で歌うのに、教室ではなんだか」 ……息苦しそうだったから。 そう言うと、まるで先生が苦しいみたいに、目を伏せた。 「お前の歌声ってさ、すげぇんだよ。なんかさ、聞いてたら、こっちまで楽しくなってくんの。俺、お前に何回励まされたかわかんねぇわ。」 ……どうしてだろうね。 どうして、先生は、会ったばかりなのに。 「お前みたいなやつのことをさ」 いつも、 「歌うために生まれてきたやつっていうのかなって思ってた」 僕の欲しいものをくれるんだろ 「だからさ、綺羅。お前の声で、壊れたものなんて、壊れるものなんて、何もねぇんだよ。むしろ、逆。」 柔らかく笑う先生に、 いつの間にか、溢れていた涙を、優しく拭われる。 「あんま泣いてると、もっと熱あがんぞ。」 その、優しい声に、もっともっと涙が出てくる。 「……なぁ、綺羅、わかったか?俺さ、お前の声を最初に聞いた時からさ、お前の声にぞっこんなの。なぁ」 コツン、と当たる額。 「……まだ、俺と喋るの、怖いか?」 ごくごく間近に迫るのは、切な気に揺れる、空の色。 「なぁ、その声で、俺の名前呼んでくれよ、綺羅。」

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