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第14話

もぞり、と体を動かす。 と、同時に違和感。 ………柔らかい…? それに、とっても暖かい。 なんでだろう。 背中にあるはずの、畳の感触も、それから硬い布団の感触もない。 ぱちりと目を開けると、目の前に広がるのは知らない天井。 …………ここ、どこ? 激しく混乱するものの、布団から覚えのある匂いがすることに気が付いた。 優しい、花の香り。 体に入っていた力が、自然と抜けていく。 ……あぁ、そっか。 そういえば僕、先生の家に来たんだっけ。 ーーーーーーーーーー "俺の家に来い" 唐突なその言葉に、パチクリと目を瞬いた。 ………え? オレノイエニコイ? 「………………?」 僕の理解が追いつかない間にも、先生は言葉を重ねる。 「綺羅がこんな家にいる必要はねぇ。俺と一緒に来い」 そういいながら、頭を撫でてくる手があまりにも心地よくて、思わず頷きそうになってしまう。 ……けど。 そんなの、できるはずがない。 もう十分過ぎるくらいもらったのに、これ以上甘えるなんてできないよ。 ……だから、名残惜しいけど。 精一杯の勇気をだして、ふるふると首を横に振った。 先生の胸を両手で押して、先生から離れようとする。 ………なのに。 「あー、はいはい。いいからお前は甘えてろ」 先生は、僕の抵抗なんてものともしない。 それどころか、より一層強く抱きしめられる。 僕は両手で、先生は片手。 なのに、僕の力は先生の足元にも及ばない。 僕は先生に抱きしめられたまま。 先生のもう一方の手もまた、いまだに僕の頭をやさしく撫でてくれている。 ……熱があるから? それとも、僕が非力だから? そうかもしれない。 けどね、きっと違う。 ーーーー僕は、"先生に悪い"っていいながら、先生に連れて行って欲しくて、しかたがないんだ。 そんなのバレたら、困るのは先生だってわかってるのに。 「………ッ、」 離れない腕に、焦る。 ーーーー離してよ。 これ以上優しくされたら、離れられなくなっちゃう。 ………だけど、嬉しいって本当は思ってる。 ーーーーこのまま、腕を離さないでほしい。 もっと、もっと、ぎゅって、抱きしめてほしい。 相反する2つの感情。 どっちが優勢か、なんて聞かなくてもわかりきってる。 ーーーーそれでも。 最後の意地。 残ってる力で、めいいっぱい、先生の体を押した。 体が離れる。 ……………ぁ。 自分がしたことなのに、怖くて。 先生と離れてしまった場所が、寒くて寒くて、どうしようもない。 優しく撫でてくれた先生の手も、僕の頭から離れてしまう。 あっという間に胸は後悔でいっぱいになって。 今にも涙があふれてしまいそう。 ……それでも、きっとそれが正解だって、仕方ないって、そう思ったのに。 ーーーーーぎゅっ。 「………………っ!?!」 先生は、頭から離れた手も使って、痛いほどに強く、強く、僕を抱きしめた。 とたんに、生まれた距離はゼロになって。 凍えそうな寒さは、遠のいていく。 ドクン。 心臓が暴れ出して。 けれど、それとは反対に心が落ち着いていく。 寒かった心が、ぽかぽか、して。 ーーーー体が、心が、"ここにいたい"って、叫んでいる。 「行かせるかよ」 耳元で囁かれた声は、ぞくりとするほどに、低かった。 「綺羅が、遠慮してんのか、本気でここにいてぇのかはしらねぇけど」 ここになんて、いたいわけがない。 だって、ここには、もう。 誰もいない。 何もない。 逃げられるものなら、ずっと逃げ出したかった。 「俺はお前を気に入ってんだ。こんなとこになんておいとけるかよ。だから悪いけど、嫌がっても連れてくぞ」 悪い、なんていいながら、ちっとも、"悪い"なんてちっとも思っていなさそうな声。 傲慢そうな言葉なのに、抱きしめる腕から伝わるのは、溢れんばかりの優しさで。 ………ああ、もうだめ。 折角、がまんしてあげたのに。 こんな僕に、優しくする先生が悪いんだよ。 ……だから、もう、いいよね? ーーーーーーそして僕は、抵抗するのをやめて、先生の首元にすり寄った。

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