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第20話
「………ぃ」
なんだか、声が聞こえる気がする。
…せっかく、あたたかくて、きもちいいのになぁ。
「…ぉ……き…、……ら」
まだ、この空間から動きたくなくて。
抵抗するように、そばにあるあたたかいものに、より一層くっついた。
「おい、おきろ、綺羅。おまえ、寝起き悪すぎだろ」
その言葉に、パチリと目を開ける。
目の前にあるのは、スーツの胸元。
あれ…?
「……やっと起きたか。早くしねぇと、昼飯食う時間なくなんぞ」
その言葉で、ようやく先生の腕の中で寝てしまったことに気が付いた。
………うわぁ、申し訳ない……。
ごめんなさい、という意味を込めて先生を見上げる。
「……ふっ、疲れてたんだろ、気にすんな」
そういうと、よしよしと頭を撫でてくる、先生。
その、優しい顔に、言葉に、心臓がきゅうっとする。
「おら、早く、飯食うぞ。お前ほんとに軽すぎだから。しっかり食べろ」
そういうと、僕をとなりにおろして、ふたりぶんのお弁当のふたを開けた。
一般的な大きさのそれと、僕の体調を考慮してくれたのか、ふたまわりほど小さなそれ。
………わぁ。
いろどりが、綺麗。
少しずつ、いろんな種類のおかずが入っている。
「…何が好物か、わかんねぇから適当だけど。なんか、好きなものあったら、教えてくれ」
…いそがしいのに、僕のためにわざわざしてくれたんだ。
申し訳なくて、でも、ほんわりと心があたたかくなって。
この嬉しさを伝えたくて、またノートに筆を滑らせる。
『お弁当、ありがとうございます。すごくすごく、嬉しいです。』
それを見た先生は、ふんわり笑って。
『顔見たら、わかる』
端的に、そう書いた。
………!?
顔?
そんなに、わかりやすい顔、してたのかな…?
思わず両手でほっぺたを触る。
「はは、やっぱおまえ、わかりやすいのな。
心配しなくても、変な顔はしてねぇよ。ほら、早く食べろ」
「………」
少し腑に落ちないけれど、時計を見てみると、昼休みは残り25分。
ぼくはあまり食べるほうじゃないし、食べるのもおそい。
特に、お昼ご飯は食べないことが多いので、食べきれるか不安なのは確かで。
ぱくり。
大人しく、先生の言葉に従って、お弁当を食べ始める。
「………!」
…………おいしい。
おやすみの間は、熱でほとんど何も食べられなかったから、初めての、先生の手料理。
…優しくて、あたたかい味。
小さい頃からずっと、"手料理"に憧れていた。
……誰かが自分のために作ってくれたものって、こんなにおいしいんだね。
"おいしい"って、そう、笑顔で伝えたいのに。
「…………ッ」
視界が、自然と滲んできてしまう。
先生は、それを見て一瞬、ギョッとした顔をしたけれど。
すぐに穏やかに笑って、頭をポンポンと撫でてくれる。
初めての"お弁当"は、自分の涙ですこししょっぱかったけれど。
……しあわせな、味がした。
『ご馳走様でした。すごくおいしかったです』
食べているときに、上手く伝えられなかったから、せめてもとノートで伝える。
すると、
『おそまつさま。俺も、綺羅と食べたから今日の昼飯、うまかったよ。ありがとな』
想定外の返事。
………なにそれ。
うれしいけど、恥ずかしい。
なんだか、熱い気がするほっぺたを抑えて、先生を見上げれば。
先生は、悪戯っぽく笑っていた。
「さんざん可愛いこと言ってくれた、お返し。午後の授業、頑張れ。帰り、ちょっと遅くなるけど、第2図書室で待ってろ。迎えに行く」
………先生といると、心臓が落ち着かない。
けれど、それが嫌だとは全く思わなくて。
ーーーーはやく、授業おわらないかなぁ。
なんて。
まだ午後の授業が始まってすらいないのに、放課後を楽しみにしている自分がいた。
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