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第21話

ーーーガラリ、 教室のドアを開ける。 すると、やっぱり僕に集まる視線。 前髪がないと、ダイレクトに感じてしまうそれらはやっぱり、すこし、こわい。 思わず俯きそうになったそのとき。 ふと目の前に、影ができた。 「はーーい、終わり。そんなに見んなって。綺羅がこまっちゃうだろ」 それは、視線から守るように、ぼくの前に立ってくれた、くろさきくんだった。 「…!そうだな、わるい」 「だね、ごめん、気をつける」 くろさきくんの一言で、あっさりと外れて行く視線。 ……すごいなぁ。 お礼が言いたくて、くろさきくんの背中をつんつんつつく。 「ん?どうした?」 優しく笑顔でこちらを向いたくろさきくんの手をそっとつかんで。 『ありがとう』 手のひらに、指でそう書いた。 すると、くろさきくんは目をぱちぱちさせてから。 『どういたしまして。あと、おかえり』 僕のてのひらに、そう書いて、穏やかに笑った。 それはまるでひまわりみたいな、華やかで、あたたかい笑顔。 それを見て、ズキリと、罪悪感で胸が痛む。 せっかくのくろさきくん達の好意に、"疲れた"なんて思ってしまったこと。 くろさきくんに抱きしめられて、嫌だと思ってしまったこと。 ……すこし、教室に帰るのが、憂鬱だって、そう思っていたこと。 ぜんぶ、ぜんぶ申し訳なくて、目を合わせられない。 謝らなきゃ。って、そう思ったのに。 「……あのさ、綺羅。ごめんな」 謝ったのは、なぜか、くろさきくんだった。 「…………?」 どうして、くろさきくんがあやまるの? 「今日は、いきなり騒がしくしすぎたかなって、反省してたんだ。俺たち勝手に盛り上がっちゃってさ。綺羅のこと、ちゃんと考えてなかったよな…。疲れちゃったんじゃないかなって思ってて…」 そういって、しゅんと俯く、くろさきくん。 そのことばに、じん、と胸が暖かくなった。 潤んでくる視界に、ぐっと歯を食いしばって耐える。 ……ぼく、最近泣いてばっかりだなぁ。 先生も、くろさきくん達も。 どうしてこんなにも、僕なんかに優しくしてくれるんだろう。 ……"ふつう"じゃない、"マチガイ"な、ぼくなのに。 「でもさ、次からは気をつける。 ……だからさ、もし、よかったら、俺と、俺たちと、友達になってくれない?」 ……どうしてそんなに、優しい言葉ばっかりくれるの。 「俺たち、本当に、綺羅と仲良くなりたいんだ」 『…ぼくなんかで、いいの?』 声には、ならない問いかけ。 けれど、それを、彼は確かに読み取って。 「ちがうよ。綺羅"が"いいんだよ。……だめ?」 そう、いってくれた。 ほんとうに、信じられないほどに、優しいことば。 何度もなんども、首を振る。 ……だめ、なわけがない。 『よろしく、お願いします』 そういうと、くろさきくんは、やっぱり花が咲いたみたいに、嬉しそうに笑った。 ……なんか、恥ずかしい…。 なんとも言えない空気がながれて。 だけど。 「おい!!黒崎!!もう我慢ならん!!何でお前ばっか!!!」 「抜け駆けはずるい!!!私たちだって同じ気持ちなのに!!」 「さっきは本当にごめん!でも、俺らも仲良くなりたい!!」 盛大なざわめきが、その気まずさすら吹き飛ばす。 一気にとんでくる、言葉と視線。 まだ、すこし体は強張ってしまうけれど。 ……さっきほどは、怖くはなくて。 「だから、"俺たちと"って言ってやっただろ! てか、もうちょっと落ち着けって。 もー!!お前ら、反省してないだろ……」 その言葉に、ぴしり、教室の空気がかたまって。 「あ、あぁぁ…ごめん、つい」 「一気にまくしたてられたら、怖いよね」 皆の声は、小さくなって。 視線は、どこをみたらいいのか探るように、うろうろと教室の中をさまよう。 ……なに、それ。 あんまりにも皆があわてるから、ぼくはすこしだけ、笑ってしまった。 ……笑ったら、失礼だったかな。 「「「き、きらが……!わらった………!」」」 途端に、また、目線が集中して。 「だから、お前らはもう………!」 同じことの繰り返しに、なんだかもっと笑えてくる。 ちょうどそのとき。 「いや〜、青春だなぁ……。先生、羨ましいよ。けどさ、皆、そろそろ座らない?授業、はじまってるんだよね……」 すこしだけ寂しそうな、社会の先生の声が聞こえて。 時計を見ると。 「「「あ……」」」 すでに、授業が始まって、5分がたっていたのだった。

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