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第41話

そして、次の日の朝。 「まぁ、なんとなく予想してたけど」 「……。」 「見事に熱でてんな」 その言葉とともに、おでこに当てられた手は、ひんやりしていて、気持ちいい。 「冷えたか、怪我か、それとも、疲れが出たか……?まあとりあえず、今日は1日、おとなしく寝てろよ」 先生は、そのまま手際よくタオルや、ひんやりした枕、それから、あまり見覚えのない飲み物をベッドにもってきて、シートをぼくの額に貼った。 「しんどくないか?」 そのまま心配そうに、ぼくの顔をのぞきこむ。 それに、ひとつ、こくりと頷いた。 ぼんやりはするけれど、しんどくはない。 「そっか。無理はすんなよ」 そう言って、髪の毛を梳かれて。 そんな"いつも通り"が、泣きたいくらいに、嬉しい。 そのまま、温もりに身を委ねるように、目を閉じようとしたとき。 「…………昨日さ、俺、不安にさせたよな。ほんとにわるかった」 そう、きりだした先生。 「……!」 てっきり、話も、"熱が下がったらにしよう"と言われると思っていたから、すこしだけびっくりする。 「……あと。ノート、読んだ」 「!」 …………どこまで、読まれたんだろう。 「綺羅は、なにも謝る必要なんてねぇよ。 あれは全部、俺のせいだ。 ………………嫉妬、したんだよ」 「…………?」 …………しっと? ……なにに? しっとって、"やきもち"のこと…だよね? どうして、先生が?だれに? 先生と、やきもちはあんまり結びつかなくて、首をかしげる。 「……昨日の、昼休み。お前が、黒崎に抱きしめられてるところ見て。 …嫉妬した」 黒崎くん……? 少しだけぼうっとする頭を必死に動かして、かんがえた。 ーーー告白、されたとき、かな……? 見られてたんだ、そう思うと、なんとも言えない気持ちになる。 そっか、あのとき、かぁ。 そう、納得しかけて。 ん……? あれ? でも、ぼくが、だきしめられてて、しっと? …………それって。 とたんに、ぼっと顔があつくなった。 心臓が、ドキドキする。 こんなにうるさかったら、先生に音が聞こえてしまいそう。 だから、はやく冷静にならないとって、そう思うのに。 どきどき、バクバク。 勘違いした心臓の早い鼓動は、少しも治まってくれそうにない。 勝手に期待するのを、やめられない。 …………きっと、そういう意味じゃ、ないのにな。 だって、そんな、奇跡みたいなこと、起こるはずがない。 こんなに優しくて、綺麗で、素敵な先生が、わざわざぼくを選んでくれるなんて、そんなことはありえないんだって。 そう、思っていたのに。 「…………俺、綺羅が好きだ」 先生は、まっすぐにぼくを見て、そう言った。 「…………!?」 おちつか、ないと。 "すき"は"すき"でも、それは、きっと、ぼくのそれとは、ちがうもので。 だから。 「何回も、ちがうって、思い込もうとしたけど」 期待させないでほしいのに。 「綺羅の"すき"は違う意味なのかもしれねぇけど、俺は。 …………恋愛の意味で、綺羅が"すき"だ」 その言葉で、頭が真っ白になってしまう。 そんな、はずないのに。 先生と、生徒で。 保護者と、こどもで。 男と、男。 だから、叶うわけないって。 そう、思っていたのに。 「お前に、綺羅に、幸せになってほしい。たくさん、笑ってほしい。 ……けど、そうなるのは、全部俺のそばであってほしいって、思ってる」 「…………!」 泣きそうに、なる。 先生と、一緒にいられるだけで、奇跡。 なのに。 ……ぼくはいま、都合のいい夢を見ているのかな? けれど、ぎゅうっと腕をつねってみても、視界に広がるものは、変わらない。 先生も、消えない。 ……ほんとうに、これは、現実? 「きらの言う"すき"が、どういう意味なのかは、わからねぇけど」 「…!」 あの、ぐちゃぐちゃの"すき"を、先生は見たんだとわかる。 「それが、どんな"すき"でも、俺のとは違ってても。…………俺は、もう絶対に綺羅を離せねぇ。」 すきなんだ、 そう、もう一度告げられて。 ぽろり、と涙がひとつ、こぼれた。 ……ほんとうの、ほんとうに? ここで、ぼくが返事をしたら消えてしまう、幻じゃないのかな。 「ごめんな」 勝手な大人で。 切なそうに笑って、そういう先生。 ふるふると、全力で首を振る。 そこで、 『ぼくも、すき』 そう、口の動きで伝えようとして。 けど。 「…ぉ、………はっ、…………っ、……ぅ、…けほっ…、けほっ」 「綺羅っ!?」 声を出そうとすれば、閉まる喉。 先生は、僕を抱き起こして、背中をさする。 「っっ………ひゅっ、…………っ、ぅ、けほっ、げほっ」 「無理に、喋ろうとすんな」 だけど。 これは、口の動きとか、文字とか、そういうものではなくて。 相手に、"くみ取ってもらう"んじゃなくて。 「……げほっ………き…………っ、けほっ」 「……綺羅、いいから。のど、傷つく」 ーーー"自分の声"で、伝えたい。 大切なことすら、伝えられないのなら、のどなんて、こわれてしまえばいい。 「す、………………っ、げほっけほっ、」 「綺羅!」 ぎゅっと、肩に口を押し付けられるけれど。 そのまま、無理矢理下にずれて、肩から逃れた。 だって、声がないわけじゃないんだ。 叫べたし、歌えたし、ひとりなら喋ることだってできる。 だから、できる、はずだから。 思いっきり、全部吐き出すみたいに、さけぶ。 これが、最後の言葉になったって、いい。 「ぼ、くも、す、き!!!!!」 かすれて、とぎれて、ひびわれて。 お世辞にも綺麗とは言えない声。 他に何か音がしたら、きっと、かき消されて、聞こえない。 そのくらいに、小さなこえ。 …………けれど、それでも、言えた、から。 バッと顔を上げて、先生を見る。 「……!」 先生は、泣きそうな顔をしていた。

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