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第43話
それは、数分だったかもしれないし、一瞬だったかもしれない。
ただ、お互いの存在を、確かめ合うみたいに、触れ合っていた唇。
それだけで、とてつもない幸福感につつまれる。
それが、少し離れて。
「…………くち、あけろ」
唇に柔らかく触れる、先生の吐息。
言われるがままに、ぼんやりする頭で、ちいさく口を開いた。
最初にかんじたのは、あたたかい吐息。
それが、ぼくの中に流れ込んできて。
……あ、こんなこと、前にもあったなぁ。
そう、思った。
その時は、ぼくに酸素を渡すためだったそれ。
けれど、今日は、それだけじゃなくて。
ぬるり、と柔らかいなにかが口の中に入ってきて。
「…………!?」
それが、ぼくの舌に触れると。
ーーー驚くほどに甘い刺激が、はしった。
なにが起こっているのか、どうしたらいいのかわからなくて、かたまっていると。
クスリと、先生が笑う気配がして。
「俺の真似しろ」
先生が喋るたびに、その呼気が、ぼくにながれこんでくる。その、少しひんやりした空気にすら、じんと痺れがはしって。
そのまま、なだめるように、ぼくの舌をなぞった、柔らかいなにか。
ぎこちないながらも、おなじように、少し冷たいそれをなぞる。
すると先生は、まるで褒めるかのように、ぼくの舌を甘く食んで、軽く吸って。
それに対応するように、後頭部にまわった手が、優しく髪をすいていく。
どこまでも甘いそれに、からだの芯から、痺れがこみあげる。
…………これ、なに。
こんなに、甘い痺れ、しらない。
……おかしく、なってしまいそう。
力の入らない腕で、先生のむねをおすと。
ちゅく、
とちいさく音を立ててもう一度ぼくの舌を吸い上げてから、先生はゆっくりとはなれていった。
「っは、…………はっ」
あつくて、
ふわふわして、
くらくら、する。
「やっぱ、あついな……」
そういった先生は少し眉をひそめて、赤い舌でぺろりと下唇をなめた。
そうしてはじめて、ぼくの舌に触れていたのは、先生の舌だったのだとわかって。
「…………!」
もともと火照っていた頬が、さらに、もっと、あつくなる。
うれしい。
はずかしい。
あたまのなかが、このふたつでいっぱいで。
……いま、ぼく、どんな顔してるんだろ。
顔を見られたくなくて、ずるずると先生の胸元にもたれかかる。
「熱あるのに、無理させて悪かったな。もう、寝ろ」
すると、ぼくがしんどいと勘違いしたのか、柔らかく抱きしめて、背中を撫でた。
とん、とん、と同じリズムで背中を動く手が、ここちよくて。
こんなときでさえ、先生のうでの中は、ドキドキするのに、おちつくんだ。
さっき起きたばかりなのに、まぶたはどんどん重くなってきて。
でも、もうすこし、このここちよさをあじわっていたい、なぁ。
そう思って。
むずがるように、首を動かせば、ぼくの頬に、先生の頬があたった。
すり、と一度なだめるように触れ合ったあと。
「いい子だから、寝ろ。そんで、はやく元気になれ」
耳元で、そう囁かれて。
ぼくを抱きしめたまま、先生がベッドに横になってしまえば、もう、襲ってくる眠気に耐えることはむずかしくて。
「……おやすみ、"めぐむ"」
それを聞いたのを最後に、ぼくの意識は、再びおちていった。
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