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第47話

⚠︎虐待表現注意 それは、ずっと、続いた。 ぼくがなにか、すこしでもしゃべると。 オトコノヒトは、怒るようになった。 『しゃべるなっつってんだろ!!!』 ある日は、蹴られた。 『全部全部、お前のせいだ!!!!!』 ある日は壁に叩きつけられた。 『お前のせいで、全部おかしくなったんだよ!!!』 ある日は、ものを投げつけられた。 しゃべっちゃだめだ、とわかっていても、完全にしゃべらずにいることは、やっぱりむずかしくて。 ぼくのからだは、あざでいっぱいになっていった。 そのあざは、まるで、ぼくが"マチガイ"だってことの、証明みたいで。 ぜんぶ、いたい。 すごく、いたい。 からだは、もちろんいたかったけれど。 なにより。 …………こころが、いたい。 しゃべればしゃべるだけ、傷付いた。 顔をあげればあげるだけ、自分で自分が間違っているのだと、証明することになった。 そうするうちに、ぼくは、どんどん、しゃべれなくなっていった。ひとと、目を合わせなくなっていった。 オトコノヒトは、ますます、どこか遠くを見つめるようになっていった。 全部が、ぐちゃぐちゃ。 なにを、したら、どう、したら、いいのかな。 でも、きっと、今更なにをしたって、"マチガイ"なんだろうな。 ーーーー『お前さえいなければ!!』 強いて言うなら、ぼくが生まれなければよかったんだ。 だって、ぼくの、存在そのものが、"マチガイ"なんだから。 かなしい。 さみしい。 くるしい。 けれど、それをあらわすことのできる、こえも、相手もいない。 くるしくて、くるしくて、息ができているのが、ふしぎなくらいで。 そんなときだった。 また、オトコノヒトを怒らせてしまって、蹴られて、床にうずくまっていたとき。 「〜〜〜〜〜〜♩〜〜〜〜♬〜〜」 音楽が、聞こえた。 普段、あまりついていないテレビが、その日は、珍しくついていて。 たぶん、ありがちな、歌詞。 うただって、うまいけれど、歌手としては、たぶんふつうで。 それなのに。 …………その、こえはなんだか、なきたくなるような、"なにか"を持っていて。 その"なにか"は、きっと、あふれるほどの、感情だった。 気づけば、ひとりぼっちの部屋で、ぼろぼろ泣いていた。 むねを、ぎゅうって、鷲掴みされたみたいな。 そんな、かんかく。 …………"これだ"って、思った。 ぼくの、想いとか、感情、全部さらけだせる、もの。 「〜〜〜〜〜♫〜〜♪〜〜」 誰も、いない部屋。 かすれて、ふるえて、綺麗とは、程遠いこえ。 だけど、それでも、やってみたら、息をすうのが、簡単になった気がして。 聞いてくれる相手なんて、いない。 けれど、何かに向かってうたいたかったから、空に向かって、歌うことにした。 誰にも聞かれたくなくて、でも、誰かに聞いてほしい、そんな気持ちをぶつけるには、きっと、それが1番な気がして。 ずっと、ずっと、それだけが、たのしみで。 そのときだけが、しあわせで。 それ以外は、いらないって。 そう、思っていた。

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