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第48話
ーーーううん、きっと、そう思って"いたかった"。
友達とか、ぬくもりとか、家族とか。
手を伸ばしてみたいものは、きっとたくさんあって。
だけど。
『気持ち悪いんだよ!!!』
それに手を伸ばしてみたところで。
"ふつう"じゃないぼくでは、きっと、こわしてしまうだけだから。
それならいっそ、"ふつう"からはなれたところで、おとなしくしていれば、みんな、"そのまま"で、いられる。
それが、きっと正解だって、ずっとそう思っていたのに。
ーーーー『綺羅』
先生は、ずっと、変わらなかったから。
『やっぱ、うめぇな』
先生のくれることばは、あたたかくて。
ぼくに触れる、先生の手は、いつだってあたたかくて。
息苦しい僕の世界に。
先生は、いつだって、酸素をくれた。
だから、ぼくは、先生がいないと、もうだめみたい。
だって、空と、うただけじゃ、ぼくはもう息が、できない。
うたが歌えれば、それでよかったはずなのに。
今では、先生にむかって、歌いたいなって。
先生に聞いて欲しいって、そう思う。
ぼくの行き場のない感情なんて、誰に伝える必要も、ないと思っていた。
だけど、今は、"ぼくのことば"で、先生に伝えたい。
ほんのちょっとの時間で、信じられないくらいに、ぼくは変わってしまって。
それが、怖くないといったらうそになるけれど。
先生がくれた変化だと思ったら、それすら好きになれそうな、気がする。
だから、きっと、ぼくはもっと変わっていけるはずで。
だから、先生は"こわいこと"とか、"されたくないこと"を教えてほしいって言ってくれたけれど。
そうやって、先生に気を使ってもらうばかりじゃなくて。
"こわいこと"も、"されたくないこと"も、先生を信頼しているから、大丈夫だよっていえるように、変わっていきたい。
思ったこと、むかしのこと。
それをつたない言葉でノートに書き出して、先生にわたした。
先生は、それに目を通すと、一度そのノートを置いてから。
ぎゅうっ。
ぼくを、抱きしめた。
「つらかったな。
ずっと、さみしかったな」
そう言って、よしよしと頭を撫でてくれる。
もう、昔のことだから、大丈夫だよ。
今は、先生がいてくれるから、平気だよ。
そう、思うのに。
「もう平気って思うかもしんねぇけど、思いっきり泣いて、悲しんで、それで消化できることもある。だから、今、思いっきり泣け」
泣き止むまで、絶対ここから離れねぇから。
先生が、優しい声で、そんなことを言うから。
涙が勝手にぼろぼろあふれてきて。
………なんだか、先生といると、泣いてばっかりだなぁ。
「……あと、頑張ろうとしてくれんのは嬉しいけど、"さみしい"とか、"不安だ"ってことは、ちゃんと伝えてくれ」
そう告げる、先生の声は、どこまでも優しい。
ちらりと胸に埋めていた顔をあげる。
きっと、涙でぐちゃぐちゃで、お世辞にも綺麗とは言えない顔のはずなのに、先生は愛おしそうに、頬を撫でてくれて。
「綺羅が頑張ろうとしてくれるのはうれしいよ。けどお互いが思ったことを伝えて、誤解を解いて、一緒に変わっていこうな」
そう、言ってくれた。
"一緒に"
そのことばに、目を瞬かせていると。
「俺だけが、気を使うんじゃなくて、綺羅だけが、我慢するんじゃなくて。2人で、一緒に、だ。」
ふたりで、いっしょに。
……たぶん、そんなこと、初めて言われたんじゃないかな。
じぃん、とこみ上げる感情にまかせて、先生にぎゅっと抱きついて、そのままむねに顔をうずめた。
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