48 / 69

第48話

ーーーううん、きっと、そう思って"いたかった"。 友達とか、ぬくもりとか、家族とか。 手を伸ばしてみたいものは、きっとたくさんあって。 だけど。 『気持ち悪いんだよ!!!』 それに手を伸ばしてみたところで。 "ふつう"じゃないぼくでは、きっと、こわしてしまうだけだから。 それならいっそ、"ふつう"からはなれたところで、おとなしくしていれば、みんな、"そのまま"で、いられる。 それが、きっと正解だって、ずっとそう思っていたのに。 ーーーー『綺羅』 先生は、ずっと、変わらなかったから。 『やっぱ、うめぇな』 先生のくれることばは、あたたかくて。 ぼくに触れる、先生の手は、いつだってあたたかくて。 息苦しい僕の世界に。 先生は、いつだって、酸素をくれた。 だから、ぼくは、先生がいないと、もうだめみたい。 だって、空と、うただけじゃ、ぼくはもう息が、できない。 うたが歌えれば、それでよかったはずなのに。 今では、先生にむかって、歌いたいなって。 先生に聞いて欲しいって、そう思う。 ぼくの行き場のない感情なんて、誰に伝える必要も、ないと思っていた。 だけど、今は、"ぼくのことば"で、先生に伝えたい。 ほんのちょっとの時間で、信じられないくらいに、ぼくは変わってしまって。 それが、怖くないといったらうそになるけれど。 先生がくれた変化だと思ったら、それすら好きになれそうな、気がする。 だから、きっと、ぼくはもっと変わっていけるはずで。 だから、先生は"こわいこと"とか、"されたくないこと"を教えてほしいって言ってくれたけれど。 そうやって、先生に気を使ってもらうばかりじゃなくて。 "こわいこと"も、"されたくないこと"も、先生を信頼しているから、大丈夫だよっていえるように、変わっていきたい。 思ったこと、むかしのこと。 それをつたない言葉でノートに書き出して、先生にわたした。 先生は、それに目を通すと、一度そのノートを置いてから。 ぎゅうっ。 ぼくを、抱きしめた。 「つらかったな。 ずっと、さみしかったな」 そう言って、よしよしと頭を撫でてくれる。 もう、昔のことだから、大丈夫だよ。 今は、先生がいてくれるから、平気だよ。 そう、思うのに。 「もう平気って思うかもしんねぇけど、思いっきり泣いて、悲しんで、それで消化できることもある。だから、今、思いっきり泣け」 泣き止むまで、絶対ここから離れねぇから。 先生が、優しい声で、そんなことを言うから。 涙が勝手にぼろぼろあふれてきて。 ………なんだか、先生といると、泣いてばっかりだなぁ。 「……あと、頑張ろうとしてくれんのは嬉しいけど、"さみしい"とか、"不安だ"ってことは、ちゃんと伝えてくれ」 そう告げる、先生の声は、どこまでも優しい。 ちらりと胸に埋めていた顔をあげる。 きっと、涙でぐちゃぐちゃで、お世辞にも綺麗とは言えない顔のはずなのに、先生は愛おしそうに、頬を撫でてくれて。 「綺羅が頑張ろうとしてくれるのはうれしいよ。けどお互いが思ったことを伝えて、誤解を解いて、一緒に変わっていこうな」 そう、言ってくれた。 "一緒に" そのことばに、目を瞬かせていると。 「俺だけが、気を使うんじゃなくて、綺羅だけが、我慢するんじゃなくて。2人で、一緒に、だ。」 ふたりで、いっしょに。 ……たぶん、そんなこと、初めて言われたんじゃないかな。 じぃん、とこみ上げる感情にまかせて、先生にぎゅっと抱きついて、そのままむねに顔をうずめた。

ともだちにシェアしよう!