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第50話
やっぱり、精神的なものと怪我のせいだったのか、熱はすぐに下がって。
あれからは、こわいくらいに平和な日常をすごしていた。
「あ〜〜〜〜、もうちょっとでテストの時期かぁ……。やだなぁ……」
その言葉に、もう少しで一年もおわりなんだなぁ、となんだかしんみりした気持ちにる。
いつも、なんとなく毎日を過ごしていたから、こんな気持ちははじめて。
「黒崎、バカだもんなぁ」
「うっせーー!お前もかわんないだろー!大体俺は運動できるから、いーの!」
「自分で言ったら終わりだろ……。そういや、綺羅は?勉強得意なのか?」
『ぼく?うーん…どうかなぁ……。苦手ではないけど……』
「いつもテスト何点くらい?ちなみに黒崎はにじy「おいっ!」ははっ、わるいわるい」
「勝手に人の点暴露しようとすんな!」
相変わらず黒崎くんのまわりはにぎやかで。
あの告白からもずっと、ほとんど"いつもどおり"に振舞ってくれている。
「あと、そういうことあんまズバズバ聞くなよな〜!まぁ、気になるけどさぁ。綺羅も、嫌だったら答えなくていいからな〜」
『うーん……べつに、嫌ではないけど……』
……そういうのって、教えるものなのかなぁ?
「えー、じゃあ聞きたいかも!ちなみに俺は平均で80くらい!」
「こいつ、あほ面のくせに、意外と成績いいんだよな〜。おれはいつも平均くらいだなぁ……」
「は?!アホ面?!まって、ただの悪口じゃ」
「ちなみに黒崎はいつも赤点前後だよな〜」
「え?ちょ、無視?」
「だから、言うなって!!!」
「えええ……」
「はいはい、悪かったって。いいじゃん、良いんだし。黒崎も、どうせすぐばれることだろ〜、で、綺羅は?」
この流れで言わない、のはなしだよね……。
『ぼくは、平均だと90点ちょっとくらい、かなぁ……』
くわしくは覚えていないけれど、たぶんそのくらい、だった気がする。
「「「えっ?!」」」
ノートに書いた瞬間、集まる視線。
………なにか、そんなにおかしかったかな?
とくにすることもないから、暇な時間は大体勉強してたから、勉強は苦手じゃないんだよね。
「えっ、まじか、綺羅すげぇな!そんな頭良かったんだ……!」
「顔だけじゃなくて、脳みそまで綺麗なんだな……!この脳筋とは大違いだ…」
「誰が脳筋だ!!!」
「てかお前、綺羅に勉強教えてもらった方がいいんじゃね?」
「そーじゃん、春休みまで補習とか笑えないだろ」
「うぐっ……」
『僕でいいなら、教えるけど……』
ぼくで、いいのかな……?
ほかの人に教えてもらった方が、効率よさそうだけど……
「まじか!!じゃあ教えてほしい!特に数学!」
そのことばで、あたまに浮かんだのは、先生の顔。
今までずっと、どの科目が得意とか、苦手とかはなかったのだけれど。
……最近は、数学だけ、予習と復習に力をいれていたり。
数学、がんばったら。
『えらいな。』
そう言って、あの暖かい手が褒めてくれるんじゃないか、なんて。
ずるいかな。
「……綺羅?やっぱダメ?」
その声に、それていた意識をもどす。
『ごめん、ちょっと考え事してた。いいよ』
「マジで!!ありがと〜!綺羅、だいすき!!」
そういって、がばりと僕に抱きついてくる、黒崎くん。
その行動も、ことばも、やっぱり黒崎くんの"いつもどおり"で。
だけど、ぼくと黒崎くんの体には少しだけ、力が入っていて。つまり、ぎこちなくて。
ぼくはまだしも、黒崎くんがそうなのは、やっぱり不自然で。
でも、それに気付いているのは、きっとお互いだけで。
2人だけがわかる、わかってしまう、ちいさな"ちがい"。
「…よーし、そうと決まったら俄然やる気わくな〜」
そう言いながら、自然に離れて行った黒崎くん。
「黒崎、俄然なんて言葉しってたんだ、意外」
「はぁぁあ?!そのくらい知ってるし!"めっちゃ"って感じだろ?」
「…………先が思いやられるな」
「え!?なんで?違った?」
楽しそうに笑う黒崎くんをぼんやり見ながら。
…………テスト勉強がきっかけで、少しずつでも、それがなくなったらいいなぁ。
なんて、考えていた。
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