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第53話
勉強会は、その後も、毎日続いた。
「なー、綺羅〜、ここってさ、こういうこと?」
『そうだよ』
「じゃあさ、これはー……」
「す、すげぇ……!」
「黒崎がまともに問題解いてる……!」
そう、最初は、一問ごとにあたまを抱えて唸っていた黒崎くん。
それが今では、最初はほとんど手をつけられていなかった問題も、それなりにスラスラ解けるようになっていた。
「先生がいいからな!」
ニッコリわらって、何のためらいもなくそういう、黒崎くん。
だけど、僕はほとんどなにもしていないし、頑張ったのは黒崎くんだと思う。
……黒崎くんって、ほんとうに"まっすぐ"なんだなぁ。
いつだって、人とまっすぐに向き合っていて、決めたことには、まっすぐに取り組む。
みんなが黒崎くんに惹かれる気持ちが、すごくよくわかった。
『黒崎くん、あっという間に数学できるようになったね。』
それは、きっとそれだけ一生懸命やったということで。
『ほんとうに、すごい』
そう書けば、黒崎くんは、不思議そうに目を瞬かせた。
「え?……すごいのは、こんな、テスト前になって焦るんじゃなくて、普段からできてる、綺羅のほうだろ?」
まるで、当たり前みたいに、そんなことをいうから。
思わず、ぽかんとしてしまった。
「ほんとにさ〜、こういうとこがなぁ……」
「お前って、勉強はイマイチだけど、わりと器用でなんでもできるのに、これだから、やっぱなんか憎めねぇよなぁ………」
苦笑する2人の気持ちが、よく分かる気がした。当たり前に頑張れて、それなのに他の人のことを尊敬して、大切にできる。
それって、すごくかっこいいなぁって。
「それって、ほめてんの?けなしてんの?」
「まぁ、好きなように取れや」
と、そこで。
ポツ、ポツ。
窓ガラスに雨粒が当たる音が聞こえた。
「あ、雨」
その黒崎くんの言葉に、2人がバッと外を見る。
「「マジか!」」
「俺、傘持ってねぇよ……」
「俺もだよ」
「マジかお前ら、この後ずっと雨だぞ」
「うっげぇ……嘘だろ」
「天気予報くらい見とけって。綺羅は?傘大丈夫?」
『うん、折りたたみ持ってる』
「俺も、折りたたみ」
「えーー、2人とも裏切り者かよ…」
「いや、普通にお前らが悪いだろ」
「はぁ…。明日から天気予報見よ……。
じゃあ、俺ちょっと走って帰るわ」
「俺も〜。今だったらそんな濡れずに帰れんだろ」
『傘、入る?』
一つの傘に2人はいればいいと思ったのだけれど。
「いや、折りたたみに男2人はキツイだろ。俺ら結構ガタイいいしな〜。黒崎は兎も角、綺羅に風邪引かせたら悪いし」
「ほんとそれ」
「てかまず、黒崎は風邪ひかねぇか。バカだもんな」
「は?!お前らなぁ…!」
「じゃあ、そういうわけで、俺らはお先!」
走れ〜!といいながら、呆れながらも笑う黒崎くんを尻目に。
2人は手早く荷物をまとめて、走っていった。
「なんか、騒がしかったなぁ…。大丈夫か、アイツら」
『ね、良かったのかなぁ……?』
「…ま、確かに折りたたみじゃキツイしな。
どうする?もうちょっと残る?」
『そうだね』
ーーーーそうして、図らずも、ぼくたちは久しぶりに"2人きり"になった。
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