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第55話
問題を見れば、反射で手が動く。
独立な事象の確率なら、足せばいいし、そうでないなら、かければいいし。
データの分散とか相関関数とかを聞かれれば。ただ、定義にそってとけばいい。
数学は、かんがえないととけないけれど、最初から、枠組みをくれるから、好き。
カリカリと問題を解いて、正解を見て。
それを繰り返していれば、ふと目元があたたかいものに、おおわれた。
「!」
それにびっくりして、手からシャーペンがこぼれてしまう。
「はい、一旦終わり」
びっくりして目をパチパチさせれば、目を覆うなにかに、まつげがあたる。
くすぐってぇよと笑われて、頭を撫でられた。
そのまま、体を後ろに引かれて、目元から手が離れる。
ぼくを見下ろす、あおと、視線がからまった。
その優しげにきらめくあおをみていると、体からほっと力が抜けて。
気がつけば、後ろに立つ先生に、もたれかかっていた。
「勉強すんのはえらいけど、お前はちょっとやりすぎ」
そう言われて時計を見れば、思っていたよりも時間がたっていた。
そのまま、先生の手が、そっとぼくの肩に置かれて。
「すげぇ肩凝ってるし」
そのまま、ゆるりとほぐすように、肩を撫でられて、ピクリとからだが、震える。
「こら、力入れんな。マッサージするだけだから」
そういうと、その言葉通り、肩や首のあたりを、絶妙な力加減で押し込まれる。
服越しに伝わる、先生の体温と相まって、すごく、きもちいい。
その手は、止まることなく、腰のところまで降りてきて。
きゅ、と押されるたびに、ただでさえ抜けている力が、ますます抜けていく。
「……よし、こんくらいか。」
先生がそう言っててを止める頃には、もうふにゃふにゃで。
完全に、先生に体重を預けていた。
…………きもち、よかった。
ほう、とため息のようなものが口から溢れる。
いまだに余韻でぼんやりしていると、ほっぺたを優しくつままれた。
「……あんまり同じ姿勢でいると、頭痛くなんぞ」
そういうと、先生は僕を抱き上げて、ベッドの上まで運んでいった。
「…………!」
衝撃でハッと我に帰った時には、向かい合わせで先生の膝のうえにのせられていて。
「まえから勉強はしてたけどさ。最近、ずーっと、勉強してるよな。
学校でも、残って黒崎達とやってんだろ?」
コクリ、とひとつうなずく。
先生は少しだけ考えるように目を伏せてから。
「……そんな勉強しなくても、お前テスト余裕なんじゃねぇの?
それとも、そんなに"ごほうび"楽しみにしててくれた?」
そう言って、悪戯っぽく目を細める。
ごほうび。
その言葉に、ぼっと顔が赤くなるのが、わかる。
先生とデートができるかもしれないって。
それが、楽しみで。そのために、始めた勉強。
けれど。
こころのなかにずっとあるもやは、やっぱり、晴れなくて。
「…………やっぱ、綺羅、なんか悩んでるだろ」
そして先生は、それを見透かすようにそう言って、柔らかくわらった。
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