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第60話
ーーーそして、待ちに待った終業式。
「じゃあ、期末テストの成績表返すぞー」
その声に、どくんと心臓が脈打った。
……とうとう返ってくるんだ。
早く見たいような、返ってきてほしくないような。
そんな気持ちでも。
「綺羅」
あっさり自分の番はまわってきてしまう。
返ってきた成績表を胸に抱いて、そっと目を伏せる。
……勉強は、した。
でも、ぼくは、ちゃんと"自分が立てた目標"を、超えられてるのかな。
ごほうびの、デート、できるかな。
きっと、ぼくが目標をクリアできていなかったとしても、充さんはデートしてくれるんだろうけど。
はじめての、大切なことくらい、自分で努力して、手に入れてみたい。
……なにもかも、"あたえてもらう"んじゃなくて、ぼくが"勝ち取り"たい。
ぎゅっと目を閉じたまま、そっと成績表をめくる。
どくどくとせわしなく動き続ける心臓を、制服のうえからおさえつけて、覚悟をきめた。
「…………」
そのまま、うっすらと目を開けると。
「………………!」
並ぶ数字は、全てが3桁だった。
自分の目にうつるものが、信じられなくて、パチパチと目を瞬く。
けれど、何度瞬きしても、何度見直しても、視界にうつるのは、同じ数字で。
最初にこみ上げたのは、純粋な驚き。
そして、そのあとにこみあげたのは。
…………とてつもない、よろこびで。
先生が、終わりの挨拶をするのもそこそこに、教室を飛び出した。
パタパタと、まだあまり人気のない廊下に、ぼくの足音が響く。
向かう先は、たったひとつ。
いつもの半分もかけずに辿り着いたその扉を、2回、ノックする。
けれどそこで、ハッと我に返った。
いるかどうかもわからないのに、夢中で走ってきてしまった。
それに、仮にいたとしても、充さんはきっとまだ仕事中で。
……どうしよう、迷惑だったかな。
ふと、不安になった。
そもそも、同じ家に住んでいるのだから、家に帰ってから言えばいい話なわけで。
きゅうにこわくなって、じり、と一歩後ずさった時。
「めぐむ!」
すぐ近くから、聞きたかった、その声が聞こえた。
「!」
びっくりして、そっちを見ると、息を切らせた充さんが立っていて。
ぼくが何か言うよりも先に。
「おめでとう!」
そう言って、ぼくを抱きしめた。
急な展開に、ついていけなくて、目を白黒させる。それでも、先生の香りに包まれて、安心して、全てを委ねてしまいそうになるけれど。
「…………!」
ハッと気付いた。
ここ、廊下……!
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