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第65話
⚠︎暴力表現注意⚠︎
まず、狙われたのは、とくにあざの残る、お腹と背中だった。
「あーあ、あのときぼくに捕まっておけば、こんな目にはあわなかったかもしれないのにね」
ガンッ!!!
思いっきり振り抜かれた足は、容赦なくぼくの体にあたって。
軽く吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられて止まれば、そのまま足でお腹を踏みつけられて。
グリグリと圧迫するように踏み抜かれるそれは、きっと、さっきの言葉通り、"傷を消す"ーーーー"傷をぬりかえようとしている"みたい。
ぐううぅっとさらに圧がかけられて、思わず息をつめると、ようやく足がはなされた。
「ッ……!けほっ、……げほっ、うぅっ、」
「あぶなかった。肋骨折っちゃったらさすがにマズイもんね。まぁでも、安心して?ぼく、一応医者だからさ」
死にはしないように、加減してあげる。
そういう表情も、ずっと優しげに笑ったまんま。
蹴る時も、殴る時も、首を締める時も。
彼は、わらったままだった。
ただただ、そのひとみだけが。
どこか遠くをなぞったまま。
"お前のことが大嫌いだ"と、そう告げていた。
「っはぁ…………はっ、はぁ…………」
全身、もう痛くないいところがないくらいに、痛めつけられたあと。
「ごめんね、痛かった?」
ようやく満足したらしい彼は、僕から離れた。
「今が1番つらいと思うけど、大丈夫だよ。すぐに、楽になれる。
…………"綺羅"さえくれば、これは終わるからね」
それはきっと、そんなに遠いことじゃないよ。
全身がズキズキして、熱いのか、痛いのか、それとももう痛覚すら曖昧なのか、なにもわからない。
「だから、本当は、自分とあの女の遺伝子で合成された物体なんて、気持ち悪くてしょうがないんだけど」
その相変わらず優しげな口調で、なにを言っているのかすら、あいまいで。
「"まだ"生きててもらわないとね」
「…………っ、、は、ぁ…………ハァ」
「…………うーん、ほんとに、うるさいなぁ」
口を足で踏まれて、塞がれる。
息がしづらくて、肺が締め付けられるように苦しいのに。
限界を超えた頭では、全てがひとごとみたいで。
「わからないなぁ。
なにも喋らない、何もできない、何も持ってない君がさ、なんで愛されたんだろうね。
君はあの冴木さんとやらに、何もあげられないし、何か与えられるとしたら、それは」
罪と汚名だけなのに。
その言葉は、まるで、刻みつけようとするみたいに、耳元で囁かれる。
「綺羅の幸せも、冴木さんの日常もこわすなんて、本当に悪魔みたいだね。
……やっぱり、悪意で生みだされた子は、人を不幸にすることしか、できないのかな」
カワイソウニ。
耳元で囁かれ続ける言葉は、のろいみたい。
彼は、優しい口調で、優しい表情で、呪いの言葉を吐きつづける。
少し不器用で荒い口調で、けれどいつも暖かい言葉をくれる、充さんとは、正反対。
「いっそ、生まれてこなかったらよかったのかもね」
どこかで聞いたようなセリフ。
けれど、ぼくを傷つけるはずの、そのことばすら、なんだか遠くて。
急におとずれた、まるで、充さんと出会う前みたいな、ううん、むしろそれよりもひどいかもしれない、この状況に。
ついていけない脳みそは、悲鳴をあげて。
ぷつり、意識が途切れた。
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