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第1―3話
その夜、小野寺はいつものように高野の部屋に連れ込まれていた。
最近、高野が多忙で一緒に食事を出来ていなかったからだ。
今夜のメニューは中華料理の数々。
余りの美味しさに小野寺はニコニコしながら、どんどん食べ進める。
「美味いか?」
「美味いです!!」
普段のツンもどこへやら、素直に返事までしてしまう。
そんな小野寺に高野はやさしい視線を注ぐ。
食事も終わり、小野寺が「後片付けくらいします!」と申し出たけれど、「お前がやると時間が掛かる。いいから座っとけ」と一蹴された。
小野寺がダイニングテーブルからソファに移動してテレビを見ていると、少しして高野がやって来た。
手にはマグカップを二つ持っている。
「ほら、コーヒー」
「あ、ありがとうございます…」
どかっと隣りに座られてソファの背に腕を廻される。
高野がテレビのリモコンを掴み、テレビが消される。
途端に降りてくる沈黙。
小野寺は気まずくコーヒーを飲む。
すると、高野がポツリと言った。
「お前、そんなに俺のこと好きなの」
ブブーーーッ。
コーヒーを吹き出さす飲み込んだ自分を褒めてもらいたいと思いながら、小野寺はすかさず言う。
「ななななんなんですか!急に!!」
「お前、去年のクリスマス・イヴにドライブに行ったとこ、良い場所だって美濃に教えてやったんだって?」
「そ、それは美濃さんが都内で観光地化されてない夜景スポットを探してて、見つからなくて困ってたからで…!」
「つまりお前もあの場所、気に入ったってことだよな?」
「う…それは…まあ…」
真っ赤になって俯く小野寺を高野が抱き寄せる。
「たっ高野さん!?」
「だから俺が好きなんだろ」
「何でそうなるんですか!?」
「俺と見た夜景を人に教えたくなるほど気に入るって、好きな人とだからじゃねーの?」
「そっそれは…」
アワアワする小野寺のおでこに高野がチュッとキスをする。
「また今年も行こうか、あそこに」
やさしく囁かれて、小野寺は頷きそうになるのをぐっと堪える。
「ダメです。予定があります」
「……予定?」
途端に高野から不穏な空気が醸し出される。
「だっだから!」
小野寺が高野から真っ赤な顔を背ける。
「高野さんの誕生日パーティーですよっ!
クリスマス・イヴも一緒にお祝いしようって計画してるんです!」
「……マジ?」
「こっこんなこと、嘘なんかつきません!
だから高野さんは12月24日は仕事が終わったら、俺んちに来てくれればいいんです!!」
高野が小野寺を強く抱きしめる。
「どうしよう…スゲーうれしい」
「……」
「分かった。お前の言う通りにする。
楽しみにしてるから」
「…そ、そうですか」
小野寺は小さく呟きながら、心の中でガッツポーズをしていた。
やった!第一段階成功!!
だが喜びも束の間、高野の「抱きたい」の一言の後、ソファで泣くほど喘がされる羽目になるのだった―――。
横澤は日和も寝て、桐嶋とリビングで二人きりになった時、相談があると切り出した。
「相談?」
桐嶋が手にしていた発泡酒をローテーブルに置いて、横澤に向き直る。
横澤は羽鳥に転送してもらった夜景の画像をスマホで見せながら、羽鳥から相談された内容を桐嶋に話した。
「つまり高野もその場所を知ってた可能性があるよな?」
綺麗に整った顔を近付けられて、横澤の胸がドキドキする。
だが今はそんな場合では無い。
「そうだな。
言われてみれば、知らなきゃそんなに喜ばないよな」
「高野も元々その場所がお気に入りだった。
その場所を良い夜景スポットだと小野寺が美濃に教えたのが嬉しかった。
だから羽鳥にお礼なんじゃないか?」
「そうか…!」
横澤が大きく頷くと、桐嶋がニヤリと笑った。
「高野と小野寺ってまだ恋人って訳じゃ無さそうだけど、ただの上司と部下じゃないだろ」
「それは…」
横澤が口ごもると桐嶋が横澤の頭をポンポンと軽く叩いた。
「あんなの見てりゃ分かるだろ。
だからあの二人でその夜景の場所に行った可能性もある」
「だな…。
だけどだからって何で羽鳥に車の購入を勧めるんだ?」
桐嶋がプッと吹き出してあははと笑い出す。
「よくその画像を見てみろよ。
明日、美濃に確認したっていい。
そこはたぶん車じゃなきゃ行けない」
「はあ…まあ、そうか。
でも何だって羽鳥に…」
「もう忘れたのか?
俺達だってしただろ。夜の海で」
「夜の…海…?」
はて?と眉を寄せる横澤の顔がボッと赤くなる。
「あっあんたなあ!!」
「今は俺に向かって来る場合じゃねーだろ」
桐嶋にシレッと言われて、ハッと気付く。
つまり高野と小野寺はこの夜景の場所でカーセックスをした…。
元々お気に入りの場所に小野寺と行けて嬉しかったのに、そこまでコトに及んで政宗は更に嬉しかったに違いない。
しかもその場所を『オススメの夜景スポット』と小野寺がエメ編で明言した。
さぞかしその事実を知った政宗は浮かれただろう。
教えてくれた羽鳥に軽口を叩く程に。
『車はいいぞ、お前も今度試してみろよ』
あの台詞はカーセックスを勧めてたのか!!
ぶわああっと横澤が首まで真っ赤になる。
そんな横澤を慰めるように桐嶋が横澤の肩を抱く。
「今度、羽鳥を誘って3人で飲みに行こうぜ。
それで事実を教えてやろう。
個室の良い店があるんだ」
なぜだか楽しそうな桐嶋に、横澤は力無く頷づいた。
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