4 / 13
第1―4話
その週の金曜日。
「なあ雪名。この夜景どう思う?」
木佐は雪名とセックスの後、雪名と一緒にゆっくり風呂に入り、もうパジャマ姿でダルい身体をベッドに投げ出しながら、雪名にスマホを差し出した。
雪名は下半身はスエットを履いて、上半身裸で髪を拭いている。
「どれですか?」
雪名がにっこり笑ってスマホを受け取る。
ズキューン!!
なんちゅうカッコ良さだ…心臓が持たねえ…!!
木佐は顔を赤くして雪名から目を逸らす。
「へー。綺麗な夜景っすねー!
何県ですか?
北海道だったりして」
北海道出身の雪名は何だか楽しそうだ。
「東京」
サラッと答えた木佐に雪名が詰め寄る。
「東京!?
じゃあ見に行きましょうよ!
夜景デートなんてしたことないし!
あっ!クリスマスなんてどうっすか!?」
「それがさあ…」
木佐がため息を吐く。
「それって同僚の資料画像なんだけど、パソコンで検索した時は昼間の風景しか載ってなくて、後日その夜景を撮りに行ったんだけど、車じゃないと無理な場所なんだって。
俺ら車無いじゃん?」
だが雪名の顔がパッと明るくなる。
「雪名?」
「丁度良いっすよ!
クリスマス・イヴの日、俺バイトの都合で料理が作れる時間に帰れないから、デパ地下で食い物調達しようって決めてたじゃないっすか」
「ああ…うん」
何でそれが丁度良いんだ??
木佐は首を傾げる。
「だからレンタカー借りて、夜景を見ながらクリスマスディナーするってどうすっか?
酒は帰って来た時のお楽しみってことで」
木佐の顔もパーッと明るくなる。
「それいい!
じゃあ俺レンタカー予約しとくわ!」
雪名が微笑んで木佐を抱きしめる。
雪名の素肌に顔を埋めることになって、木佐の心臓の鼓動が早くなる。
「それ、俺がやります。
車も料理もケーキも飲み物も俺が全部用意します。したいんです」
「何で…」
木佐が雪名を見上げる。
「だって翔太さんとの初めてのドライブデートのクリスマスだから。
翔太さんをエスコートしたい」
「ゆ、雪名…」
キラキラキラキラ。
雪名の発するキラキラオーラに真っ赤になって瞬きすると、木佐は「あ…ありがとな…」と呟いて、今度は木佐から雪名に抱きついた。
同じ夜。
「素敵なお店ですね」
「まあな。
伊集院先生の好みがうるさいから、色々と詳しくなるんだよ」
羽鳥と桐嶋が穏やかに笑い合う。
そんな中、横澤だけは憂鬱そうだ。
それもそうだ。
先日、羽鳥から相談された答えをこれから話すのだ。
あんなくだらねーことを…!!
思わずこの場にいない高野に悪態をつきたくなる。
桐嶋の推測はほぼ当たっているだろう。
横澤が桐嶋に相談した翌日、美濃に確認したところ、確かにあの場所は車じゃないと行けないということだった。
ああ、恥ずかしい!!
あんなに真面目に悩んでいた羽鳥に、あんなことを言わなきゃなんねーのか…!
政宗のヤロー覚えとけよ!!
日本酒の銘酒が揃うという店で、まずは喉を湿らそうと頼んた生ビールをヤケになってゴクゴクと飲む横澤を、桐嶋が横目で見てニヤリと笑った。
絶品の料理も進み、酒も日本酒に変わって二種類目になった頃、桐嶋が切り出した。
「横澤から、羽鳥からの相談の相談を受けたんだが…」
「あ、羽鳥、すまん。
勝手に桐嶋さんに話して」
今更のことに気付いて横澤が謝る。
羽鳥は微笑んで首を横に振る。
「気にしていません。
それだけ横澤さんが真剣に考えて下さったからですよね。
桐嶋さんもお手間取らせてすみませんでした」
「いや、大したことじゃない。
気にすんな。
それよりあの夜景の画像、出してみてくれるか?」
羽鳥はスーツのジャケットからスマホを取り出すと、夜景を画面に映した。
「羽鳥、まずこの画像をよく見てみろ」
桐嶋が羽鳥のスマホを指さしながら話し出した。
「…と、いう意味で高野は言ったんだと思う」
という言葉で桐嶋の話は締め括られた。
羽鳥は「……そうですか」と言ったきり黙ってしまった。
横澤が慌てて明るく言う。
「政宗のやつも悪気は無かったと思う!
嬉しくて舞い上がっちゃったんだよな、たぶん!
政宗ってああ見えて子供っぽいところもあるからさ!」
そんな横澤の必死の言い訳を聞いているのかいないのか、羽鳥は無表情にテーブルを見つめて「…カーセックス…」と呟いた。
桐嶋が笑う。
「まあまあそんなにマジに受け取るな。
上司のつまんねーシャレだと思って流してやれ」
羽鳥は「そうですね」と頷くと、日本酒のロックを一気に飲んだ。
横澤と桐嶋と羽鳥は店の前で別れた。
もう22時前だったが、一息つきたくて、横澤と桐嶋は何度か一緒に行ったことのあるバーに寄った。
横澤がカクテルを一口飲んで頭を抱える。
「あー政宗が軽蔑されたらどーしよう…」
「そんなこと無いだろ」
余りに平然としている桐嶋にムッとする。
「そうか?
でも羽鳥のやつ、明らかにショック受けて無かったか?」
「ショック…というより、気付いたって感じだったけどな」
「気付く?何に?」
桐嶋がフッと笑って横澤の頬を指先でつつく。
「こら!顔をつつくな!」
真っ赤になって桐嶋の指先から逃れようとする横澤に、桐嶋が甘く囁く。
「やっぱり隆史はかわいいなー」
「な、何言ってんだ、あんた…」
桐嶋を振りほどき、真っ赤なままカクテルを口にする横澤を見ながら、桐嶋のクリスマスは始まった。
何かひんやりしていて、それでも暖かい大きなもの。
そんなものに身体を包まれて、吉野は目を覚ました。
「ん…なに…」
「悪い。起こしたか?」
抱きしめられていて顔は見えない。
けれど誰だかなんて、声だけで分かる。
「トリ…?どうして…」
ここにいるの、と訊こうとして唇を塞がれる。
唇を割られ侵入してくる舌に吉野の舌は難なく捕えられる。
痛いほど舌をしゃぶられ、吉野の背筋がぞくぞくとする。
羽鳥は吉野の口腔を乱暴に舐め回すと唇を離し、今度は吉野の白く細い首筋に噛み付く。
「やっ…いた…ぁあん…っ …」
首に気を取られていると、パジャマの上着の裾から大きな手が入ってきて、胸の突起を強く摘む。
「なっ…トリ…」
吉野が仰け反って羽鳥にしがみつく。
そこで吉野はビックリして瞳を開けた。
羽鳥はスーツなのは勿論のこと、コートまで着たままだ。
「トリ…どしたの…?」
それに少し酒臭い。
酔っているのだろうか?
「千秋…」
羽鳥が吉野の耳朶を舌でなぞる。
「んんっ…なに…」
「クリスマス・イヴ…一緒に過ごそうな」
「…へ?
一緒に過ごすって約束したじゃん、この前」
「千秋…好きだよ」
また唇を重ねられ、片手で乳首を片手で自身を握り込まれ、吉野は身動きすら出来ずに快感の淵に落ちていく。
吉野と羽鳥のクリスマスも、吉野だけが預かり知らぬところで始まっていた。
ともだちにシェアしよう!