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第1―4話

その週の金曜日。 「なあ雪名。この夜景どう思う?」 木佐は雪名とセックスの後、雪名と一緒にゆっくり風呂に入り、もうパジャマ姿でダルい身体をベッドに投げ出しながら、雪名にスマホを差し出した。 雪名は下半身はスエットを履いて、上半身裸で髪を拭いている。 「どれですか?」 雪名がにっこり笑ってスマホを受け取る。 ズキューン!! なんちゅうカッコ良さだ…心臓が持たねえ…!! 木佐は顔を赤くして雪名から目を逸らす。 「へー。綺麗な夜景っすねー! 何県ですか? 北海道だったりして」 北海道出身の雪名は何だか楽しそうだ。 「東京」 サラッと答えた木佐に雪名が詰め寄る。 「東京!? じゃあ見に行きましょうよ! 夜景デートなんてしたことないし! あっ!クリスマスなんてどうっすか!?」 「それがさあ…」 木佐がため息を吐く。 「それって同僚の資料画像なんだけど、パソコンで検索した時は昼間の風景しか載ってなくて、後日その夜景を撮りに行ったんだけど、車じゃないと無理な場所なんだって。 俺ら車無いじゃん?」 だが雪名の顔がパッと明るくなる。 「雪名?」 「丁度良いっすよ! クリスマス・イヴの日、俺バイトの都合で料理が作れる時間に帰れないから、デパ地下で食い物調達しようって決めてたじゃないっすか」 「ああ…うん」 何でそれが丁度良いんだ?? 木佐は首を傾げる。 「だからレンタカー借りて、夜景を見ながらクリスマスディナーするってどうすっか? 酒は帰って来た時のお楽しみってことで」 木佐の顔もパーッと明るくなる。 「それいい! じゃあ俺レンタカー予約しとくわ!」 雪名が微笑んで木佐を抱きしめる。 雪名の素肌に顔を埋めることになって、木佐の心臓の鼓動が早くなる。 「それ、俺がやります。 車も料理もケーキも飲み物も俺が全部用意します。したいんです」 「何で…」 木佐が雪名を見上げる。 「だって翔太さんとの初めてのドライブデートのクリスマスだから。 翔太さんをエスコートしたい」 「ゆ、雪名…」 キラキラキラキラ。 雪名の発するキラキラオーラに真っ赤になって瞬きすると、木佐は「あ…ありがとな…」と呟いて、今度は木佐から雪名に抱きついた。 同じ夜。 「素敵なお店ですね」 「まあな。 伊集院先生の好みがうるさいから、色々と詳しくなるんだよ」 羽鳥と桐嶋が穏やかに笑い合う。 そんな中、横澤だけは憂鬱そうだ。 それもそうだ。 先日、羽鳥から相談された答えをこれから話すのだ。 あんなくだらねーことを…!! 思わずこの場にいない高野に悪態をつきたくなる。 桐嶋の推測はほぼ当たっているだろう。 横澤が桐嶋に相談した翌日、美濃に確認したところ、確かにあの場所は車じゃないと行けないということだった。 ああ、恥ずかしい!! あんなに真面目に悩んでいた羽鳥に、あんなことを言わなきゃなんねーのか…! 政宗のヤロー覚えとけよ!! 日本酒の銘酒が揃うという店で、まずは喉を湿らそうと頼んた生ビールをヤケになってゴクゴクと飲む横澤を、桐嶋が横目で見てニヤリと笑った。 絶品の料理も進み、酒も日本酒に変わって二種類目になった頃、桐嶋が切り出した。 「横澤から、羽鳥からの相談の相談を受けたんだが…」 「あ、羽鳥、すまん。 勝手に桐嶋さんに話して」 今更のことに気付いて横澤が謝る。 羽鳥は微笑んで首を横に振る。 「気にしていません。 それだけ横澤さんが真剣に考えて下さったからですよね。 桐嶋さんもお手間取らせてすみませんでした」 「いや、大したことじゃない。 気にすんな。 それよりあの夜景の画像、出してみてくれるか?」 羽鳥はスーツのジャケットからスマホを取り出すと、夜景を画面に映した。 「羽鳥、まずこの画像をよく見てみろ」 桐嶋が羽鳥のスマホを指さしながら話し出した。 「…と、いう意味で高野は言ったんだと思う」 という言葉で桐嶋の話は締め括られた。 羽鳥は「……そうですか」と言ったきり黙ってしまった。 横澤が慌てて明るく言う。 「政宗のやつも悪気は無かったと思う! 嬉しくて舞い上がっちゃったんだよな、たぶん! 政宗ってああ見えて子供っぽいところもあるからさ!」 そんな横澤の必死の言い訳を聞いているのかいないのか、羽鳥は無表情にテーブルを見つめて「…カーセックス…」と呟いた。 桐嶋が笑う。 「まあまあそんなにマジに受け取るな。 上司のつまんねーシャレだと思って流してやれ」 羽鳥は「そうですね」と頷くと、日本酒のロックを一気に飲んだ。 横澤と桐嶋と羽鳥は店の前で別れた。 もう22時前だったが、一息つきたくて、横澤と桐嶋は何度か一緒に行ったことのあるバーに寄った。 横澤がカクテルを一口飲んで頭を抱える。 「あー政宗が軽蔑されたらどーしよう…」 「そんなこと無いだろ」 余りに平然としている桐嶋にムッとする。 「そうか? でも羽鳥のやつ、明らかにショック受けて無かったか?」 「ショック…というより、気付いたって感じだったけどな」 「気付く?何に?」 桐嶋がフッと笑って横澤の頬を指先でつつく。 「こら!顔をつつくな!」 真っ赤になって桐嶋の指先から逃れようとする横澤に、桐嶋が甘く囁く。 「やっぱり隆史はかわいいなー」 「な、何言ってんだ、あんた…」 桐嶋を振りほどき、真っ赤なままカクテルを口にする横澤を見ながら、桐嶋のクリスマスは始まった。 何かひんやりしていて、それでも暖かい大きなもの。 そんなものに身体を包まれて、吉野は目を覚ました。 「ん…なに…」 「悪い。起こしたか?」 抱きしめられていて顔は見えない。 けれど誰だかなんて、声だけで分かる。 「トリ…?どうして…」 ここにいるの、と訊こうとして唇を塞がれる。 唇を割られ侵入してくる舌に吉野の舌は難なく捕えられる。 痛いほど舌をしゃぶられ、吉野の背筋がぞくぞくとする。 羽鳥は吉野の口腔を乱暴に舐め回すと唇を離し、今度は吉野の白く細い首筋に噛み付く。 「やっ…いた…ぁあん…っ …」 首に気を取られていると、パジャマの上着の裾から大きな手が入ってきて、胸の突起を強く摘む。 「なっ…トリ…」 吉野が仰け反って羽鳥にしがみつく。 そこで吉野はビックリして瞳を開けた。 羽鳥はスーツなのは勿論のこと、コートまで着たままだ。 「トリ…どしたの…?」 それに少し酒臭い。 酔っているのだろうか? 「千秋…」 羽鳥が吉野の耳朶を舌でなぞる。 「んんっ…なに…」 「クリスマス・イヴ…一緒に過ごそうな」 「…へ? 一緒に過ごすって約束したじゃん、この前」 「千秋…好きだよ」 また唇を重ねられ、片手で乳首を片手で自身を握り込まれ、吉野は身動きすら出来ずに快感の淵に落ちていく。 吉野と羽鳥のクリスマスも、吉野だけが預かり知らぬところで始まっていた。

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