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第1―5話

そうしてやって来た12月24日、クリスマス・イヴ。 年末進行も何のその、羽鳥と木佐と小野寺は鬼神のごとくバリバリと仕事を片付けている。 高野と美濃も忙しいには忙しいが、3人ほどの勢いではない。 高野も美濃も今日はクリスマス・イヴだから、3人は何が何でも定時に帰りたいんだろうな、と予測はついていた。 そういう高野も、小野寺と一緒に過ごす約束をしていたが、小野寺からは「19時以降に来て下さい」と何度も念を押されていた。 高野は駆けずり回りながら仕事をこなす小野寺を見て、期待で頬が緩んだ。 そして17時のチャイムと共に羽鳥と木佐と小野寺は飛び出すように退社して行った。 高野と美濃はそんな3人の背中に呑気に「お疲れー」と声を掛けたのだった。 木佐が自宅マンションの玄関の扉を開けると、玄関を上がって直ぐの所に荷物が用意されていた。 「雪名、ただいまー!!」 木佐がうきうきと声を上げる。 すると、「木佐さん、お帰りなさい!」とニッコリ笑って雪名が姿を現した。 ………。 木佐は大きな目を更に見開く。 「ゆ、雪名…お前どした…?」 雪名は頭の天辺から爪先まで、完璧にサンタクロースの格好をしている。 足りないのは白い髭くらいだ。 「どしたって…サンタですけど? どっかおかしいですか?」 いや…サンタだろーがなんだろーが、雪名が王子様に見えてしまう俺は何かの病気なのか…? 木佐はフウッと息を吐くと、さっきまでとは若干テンション低く言う。 「な、何でサンタかな~なんて…」 「嫌だなあ木佐さん! 今夜はクリスマス・イヴじゃないっすか!」 だからってサンタクロースのコスプレすることないだろっ!! しかもこれから出かけるのに!! だが、そんな木佐の言葉も声にならない。 キラキラキラキラと微笑む雪名に、ズキューンと心を撃ち抜かれているからだ。 雪名はキラキラオーラを振りまきながら、木佐に紙袋を渡す。 「はい、これ木佐さんの分です」 「…は?俺の分って…何の?」 「だからーサンタクロースの衣装ですよ!」 木佐の手から紙袋が玄関の床にポトリと落ちた。 羽鳥が吉野の家のリビングに入ると、吉野はパジャマ姿だった。 もう風呂を終えたんだろう、見るからにホカホカで良い香りがしている。 いつもと匂いが違うと感じたが、今は時間との勝負だ。 些細な事に拘っている場合では無い。 羽鳥は「ただいま」と言って吉野の唇にキスを落とすと、コートとマフラーとスーツの上着を脱ぎ、ネクタイも外しソファの背もたれに掛けた。 テキパキ動く羽鳥に、さっきのキスで顔を赤くした吉野が「おかえり」と言うが、羽鳥の耳に届いているかは分からない。 それ程、今夜の羽鳥は忙しない。 恋人になる前だってクリスマス・イヴを過ごしたことは何度もあったが、こんなに慌てて支度をする羽鳥は初めてだ。 もう既にというか当然というか、吉野の前に羽鳥は居なくて、キッチンで料理をする音がしている。 吉野がそうっとキッチンを覗くと、羽鳥は丸鶏に調味料をすり込み冷蔵庫に入れる所だった。 冷蔵庫で1時間寝かせるのだ。 吉野はターキーが苦手なので、羽鳥はいつも鶏で作ってくれる。 羽鳥の手は止まらず、今度は鶏の腹に詰める物を調理しているらしい。 吉野はそんな姿を見るだけで、嬉しくなってしまう。 今夜がクリスマス・イヴだと実感してしまう。 だが振り返りもせず、羽鳥が言った言葉は「すまん」だった。 「え?」 「今夜は時間が無くて、クリスマスディナーを全部手作りしてやれない」 「そんなこと全然良いよ! トリだって忙しいんだし」 「そうじゃないんだ」 羽鳥が振り返る。 その甘い眼差しに吉野の胸がドキッと鼓動を打つ。 「食事の後に連れて行きたい所がある。 そこでプレゼントを渡したい」 吉野の顔がポッと赤くなる。 「それ、どこ?」 「秘密だ」 羽鳥はそう言ってニコッと笑うと、また調理台に向かって続けた。 「だから吉野は食事の後、直ぐに出掛けられるように着替えとけ。 あったかい格好にしろよ」 「らじゃー!!」 吉野はバタバタとクローゼットのある寝室に走って行った。 19時。 小野寺のマンションの部屋の前。 高野がインターフォンを押すと、玄関の扉が開いた。 「お、お帰りなさい高野さん…」 エプロン姿の小野寺が赤い顔で俯きながら言う。 「ただいま」 高野が扉を閉める。 「あの」 「ん?」 小野寺がパッと顔を上げる。 そして。 真っ赤っかで、それでも高野の目を見ながら 「お誕生日おめでとうございます!!」 と叫ぶように言った。 高野は一瞬目を丸くし、次の瞬間小野寺を抱きしめた。

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