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第1―6話
すぐさま唇を重ねようとする高野の顔を、小野寺が全力で引き剥がす。
「なに?」
不満を隠そうともしない高野に、小野寺が怒鳴る。
「まずは食事ですよ!!
せっかく作ったのが冷めます!!」
「へー…つか作ったって誰が?」
「この部屋にはあんたと俺しかいないでしょうが!
あんたじゃなきゃ俺に決まってるでしょう!」
「へー…」
高野は無反応に近い。
高野は小野寺が手作りしたと言っても、クリスマス用の惣菜を温めたくらいだと思っているのが、小野寺にヒシヒシと伝わってくる。
………見て驚け!!
今夜こそ、いつものその上から目線を砕いてやる!!
小野寺は高野が脱いだコートを預かりハンガーに掛けながら、心の中で宣戦布告する。
高野が洗面所で手を洗って、リビングを通りダイニングテーブルに近付く。
それを悪い目付きで見守る小野寺。
「おっ…マジか…!」
高野から短い感嘆の声が上がる。
やったーーー!!
小野寺は踊り出したくなるほど一気に浮かれた。
「どうですか?
高野さんご所望の『仔羊のローストトマト煮込み』と『スモークサーモンとホタテのガトー仕立て』です!
5皿ずつ作っておきましたので、好きなだけお召し上がり下さい。
あ、チーズやサラダは買ってきたものですけど」
えへんと胸を張る小野寺の髪を、わしゃわしゃと高野の手が乱す。
「ちょっ…何するんですか!?」
「風邪引いた時に言ったこと、覚えててくれたんだな」
「…それは…よっぽど高野さんが好きなのかなって…」
赤くなった小野寺の頬に、高野が後ろからキスをする。
「サンキュ」
「…はい…」
「小野寺…」
高野が小野寺の耳元で囁く。
「でもなー5皿ずつ作ったってことは一人10皿がノルマだろ?
つーか20皿分作るなんて頭おかしいだろ」
ブチッ!!
小野寺は高野に肘鉄を食らわすと、
「おかわりせずにはいられませんから!!
さあ早く食べてみて下さい!」
と言って自らダイニングテーブルに着くと、ワインのコルクを外す。
高野も小野寺の前に座る。
ワインをグラスに注ぎながら小野寺は浮かれた声を出す。
「ワインもフルボディを3本買ってありますから、好きなだけ飲んで下さい」
酒に強くも無いくせにフルボディのワインを3本とか、やっぱ頭おかしいだろ…
だが高野は言葉には出さず、ワイングラスを持ち上げ「メリークリスマス」と言おうとすると、一瞬早く小野寺が「高野さん、お誕生日おめでとうございます!!メリークリスマス!」と言ってグラスとグラスを合わせた。
カチンと軽妙な音がする。
高野は微笑んで「ありがとう」と言ってワインを飲む。
小野寺もすこーしだけワインを口にしながら、戦いはこれからだ!!と物騒な事を考えていた。
吉野はテーブルに並んたご馳走に目を輝かした。
「なあトリ、もう食べていい?まだ?」
羽鳥がクスッと笑って、缶ビールを吉野と自分の前に置く。
吉野が不思議そうに缶ビールを持ち上げる。
「ノンアルコール…ビール…?」
「そうだ。今はそれで我慢しとけ。
お前は普通のビールを飲んでもかまわんが、飲みすぎると直ぐに眠くなるからな」
「えぇー!!飲みすぎないようにするから~!
せっかく良いビール買っといたのに」
唇を尖らせる吉野に羽鳥が淡々と告げる。
「食事の後、夜景を見に行くんだ」
「…へ?や、夜景?」
「都内で人に知られていない夜景スポットを見つけた。
そこまでドライブして、その場所でプレゼントを渡したい。
…嫌か?」
吉野がブンブンと首を横に振る。
「嫌じゃない!!行きたい!!」
「だから今はアルコールは飲めない。
運転があるからな」
そこで吉野はハッとした。
「でも車どしたの?
俺ら車持って無いじゃん」
羽鳥が微笑んで吉野の頭を撫でる。
「昨夜のうちに親父に借りといた。
お前の客用の駐車場に停めてある。
さあ乾杯しよう」
「うん!」
吉野はにっこり笑うと、缶ビールのプルトップに指をかけた。
信号待ちは勿論、下手をすると走っている時まで視線を感じる。
運転席と助手席にサンタクロースが二人。
運転をしている雪名はそんな視線を感じないのか、そもそも人から注目されるのに慣れているからなのか、全く気にする様子は無い。
つーか両方だな…たぶん…
木佐は俯いて思う。
対して雪名は、この日の為に自分でセレクトしたクリスマスソングにノリノリだ。
都内の渋滞を抜けると、車は面白いように軽快に走り出す。
すると雪名がナビの案内を無視して反対側にハンドルを切った。
「雪名?お前道間違えてんぞ?」
「こっちの方が近道なんです。
木佐さんにあの場所を教えて貰ってから、俺色々とシュミレーションしたんすよ」
「へえ…」
雪名がそんなに楽しみにしてくれていたのかと思うと、木佐は嬉しくて赤面してしまう。
行き交う車も殆ど無い、夜道を走る車の中はクリスマスソングだけが響いているのに、甘ったるくて胸が苦しい。
隣りを見れば完璧な横顔をしたサンタクロースの王子様。
ああ、心臓もたねー…
木佐がウットリしたその時、検問の警官が赤く光るバーを振って誘導しているのが見えた。
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