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第1―7話

やっとのことで『仔羊のローストトマト煮込み』と『スモークサーモンとホタテのガトー仕立て』の三皿目の半分までとワイン1本を高野と小野寺が制覇した時、小野寺が突然立ち上がった。 「たっ高野さんっ」 「なに?」 「た、誕生日プレゼント兼、く、クリスマスプレゼントがあります!!」 「…マジ?」 高野が目を見張る。 小野寺は「ちょっと待ってて下さい」と叫ぶように言うと、寝室に走って行って、直ぐに戻って来た。 手には赤と金のリボンがかけられたグリーンの大きめの箱を持っている。 小野寺は高野の横に立つと、真っ赤な顔で俯いて箱を差し出した。 「…おめでとうございます…」 そう言う小野寺の声は蚊の鳴くように小さく震えている。 高野はフッと笑って「ありがとう」と受け取る。 「これ、今開けちゃっていい?」 「どうぞ。お好きに」 小野寺が高野から目を逸らす。 高野は丁寧にリボンを外し、包装紙も外してゆく。 箱の蓋を開けると白紙に包まれていて、真ん中にブランドのシールが貼られている。 高野はシールも丁寧に剥がし、白紙を開いた。 中にはモコモコした素材のカーディガンが入っていた。 全体の色は明るいグレーで、袖口やポケット、ボタンなどは赤で彩られている。 「着てみていい?」 「ど、どうぞ…」 小野寺はまだ高野から視線を逸らしたままだ。 高野が着ていたニットを脱ぎ、カーディガンを羽織る。 そのカーディガンは物凄く軽くて、丈も身長180以上ある高野でも尻がすっぽり隠れるほど長い。 「あったけー!」 「…でしょ?」 小野寺がチラッと高野を見る。 「でもさあ、これかわい過ぎないか? 編集部に着ていく勇気ねーんだけど」 「いいんですよ!! それは自宅用ですから!!」 小野寺がキッパリと言う。 「高野さんは大体薄着なんですよ。 家にいる時はそのカーディガンを着て暖まっていて下さい。 風邪を引いた高野さんを見るの、もうイヤです」 「小野寺…」 高野が小野寺の腕を引いて抱きしめる。 「心配かけたな。悪かった。 これからはこのカーディガンを使いまくるから」 「…はい…」 「俺も…プレゼント渡していいか?」 「えっ…」 高野は小野寺から離れると、バッグの中から細長い黒い小箱を取り出した。 「ほら、開けてみろ」 「は、はい」 小箱を開けると小野寺は固まった。 そこにはキラキラと小さな透明の石がちりばめられているハート型のネックレスが入っていた。 どう見ても女の子に相応しいデザインだ。 「た、高野さん…これ…」 「ネックレスの裏側を見てみろ」 小野寺がそっとネックレスを箱から取り出す。 石がちりばめられている裏側を見てみると、『RITHU』という文字と数字が羅列されている。 小野寺は慌ててスマホを掴む。 そしてガックリ肩を落とした。 その数字は高野の携帯番号だ。 高野が小野寺の掌からネックレスを掴むと、小野寺の首に着ける。 高野は小野寺の両肩を掴み、真正面から小野寺を見つめる。 「これでお前がどこに消えても、連絡が取れるだろ」 「高野さん…」 「洋服の下にしてしまえば分からない。 着けてくれるな?」 「…はい」 「律」 小野寺の身体がビクッと揺れる。 これは…この流れは…!! 小野寺は慌てて「乾杯しましょう!」と明るく言った。 「乾杯?」 途端に高野が怪訝な顔をする。 「そうです! 今年はこうしてプレゼント交換も出来たし、乾杯してお祝いしましょう!」 「そうだな。 好きって気持ちも交換できたしな」 高野が嬉しそうに呟く。 小野寺は顔を赤くしながら、空のワインボトルをキッチンに下げ、新しいワインを開ける。 小野寺がワインをグラスに注いで、また乾杯をする。 高野は普段のクールな姿勢を崩していないが、内面は相当浮かれているらしい。 何たってワインボトルの四分の三を自分が消費しているのに気付いていないのだから。 「えーと、まず免許証を見せてもらえますか?」 警官が開いた窓から顔を雪名に向ける。 その警官の後ろにも二人警官が立っていて、雪名と木佐の乗る車を見ている。 雪名は「はい!」と明るく返事をすると免許証を警官に渡した。 「雪名皇さん、21才ね。 学生さん?」 「はい。大学生です」 「今日は…また随分盛り上がった格好してるねー。 まあクリスマスだしね。 それで目的地はどこかな?」 「この先の〇〇公園です」 「〇〇公園…? あそこは今暗いだけで何も無いよ?」 「嫌だなあ、おまわりさん! 知らないんですか!? あそこからスッゲー綺麗な夜景が見えるんすよ! 俺達、夜景を見ながらクリスマスディナーするんです!」 キラキラキラキラ。 雪名のキラキラオーラとテンションの高さに警官が苦笑いを浮かべる。 「そっか。成程ね。 それで助手席の君は、雪名さんの同級生?」 ビクッ。 俯いていた木佐が青ざめる。 「いえ…」 警官が車の中を覗き込む。 「あれ…? もしかして君、高校生?未成年? 雪名さんの後輩とか? まさか…」 警官の目が厳しさをおびる。 質問をする警官の後ろにいた二人の警官も、開いた窓ににじり寄る。 「そんな格好させられて、雪名さんに連れ回されてるんじゃないよね?」 木佐は青ざめた顔のまま、バッグから免許証を取り出した。

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