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第1―9話

「これ…色々考えたんだけどさ。 俺の仕事が忙しくてなかなか会えないし、これ見て俺を思い出してくれたらいいなとか…いや!違う!おっお守り代わりにいいかなって!!」 途中から、ぶわわわあーっと真っ赤になって小箱を雪名に差し出す木佐。 小箱にはシンプルにそのブランド特有の白いリボンだけが掛けられている。 「木佐さん…」 雪名の完璧な形の瞳が潤んで、まるで目からキラキラビームが出ているように、木佐の心臓を直撃する。 だから、心臓もたねー… 雪名は数回瞬きをすると目を擦り、「開けていいっすか?」と嬉しそうに言った。 「…いいよ。 気に入るか分かんねーけど」 雪名がいそいそとリボンを外し、小箱をパカッと開ける。 そこには、サファイアのピアスがひとつ。 「お、お前両耳同じピアスあんましてねーし」 木佐は真っ赤な顔で俯いて言う。 雪名は静かな声で 「木佐さん、ありがとうございます」 と言うと、さっと動いた。 木佐が上目遣いで雪名を見ると、雪名はバックミラーを見ながらピアスを付け替えている。 そして付け替え終わると、木佐に向き直り「どうっすか?」と笑顔で言った。 ズッキューン。 木佐は思わず「か、顔好き…」と呟いてしまう。 それ程、雪名に深いブルーの輝きのサファイアのピアスは似合っている。 雪名は口を尖らせて 「また顔っすかー。 まあ顔でもいいんですけどー」 と言うが、顔は笑っている。 木佐が 「いやっ違う!あ、違わない!けど! そのピアスが雪名をいつも以上にキラキラさせて、ま、眩しくてっ…」 と、わたわた言っていると、雪名に抱きしめられる。 「木佐さん。好きです。大好きです」 「ゆ、雪名…」 「俺からのプレゼントも受け取ってもらえますか?」 「…うん」 雪名はいかにも自分でラッピングしましたという感じのクリスマスカラーで彩られた小さな巾着型の袋を木佐に手渡した。 「わー何かラッピングもかわい過ぎて開けるのもったいねー」 木佐は掌に袋を乗せて、しげしげと袋を見ながら言った。 雪名がクスッと笑って、木佐の掌から袋を掴むとラッピングを解いてゆく。 中から現れたのは、細長い茶と水色の革の間をビーズや細かい石で繋いだチョーカーだった。 「…綺麗だな」 木佐がチョーカーに指先で触れる。 「俺が手作りしたんです」 「え!?」 雪名がちょっと目を伏せる。 「だけど木佐さんがくれたサファイアみたいな本物じゃなくて…。 革は一応本物ですけど安物だし、石はイミテーションで…」 「そんなの関係ねーよ!!」 木佐が雪名の襟首を掴む。 「俺の人生でこんな綺麗な手作りの物貰ったの、雪名に前に貰った指輪と二度目だよ! 雪名の気持ちが本物なんだから、安物とかイミテーションとか関係ねーんだよ!!」 真っ赤な顔で啖呵を切る木佐に、雪名は一瞬キョトンとして綺麗な顔をくしゃりと崩して笑った。 「うわあ、綺麗だなあー!」 吉野が柵に手を掛けて、夜景を見下ろす。 輝く夜景に、しんしんと降る粉雪。 人影の無い公園。 まるで羽鳥と世界で二人きりみたいだな…と吉野はうっとりしてしまう。 すると羽鳥の声が低く甘く響く。 「千秋、メリークリスマス」 コートのフードを頭から外され、マフラーまで外される。 コートも胸元を開けられた。 本当はタートルネックのセーターを着て来ようとしたら、羽鳥に襟ぐりの開いた服にしてマフラーを巻いて欲しいと言われ、その通りにしたのだ。 その襟ぐりを掠め、羽鳥の指が吉野の首筋の後ろに回った。 羽鳥が蕩けるように甘く微笑む。 吉野の胸がきゅんとして鼓動が高鳴る。 「良く似合ってる」 「…え?」 吉野が首筋に触れるとチェーンの冷たい感触がして、吉野はペンダントトップを掴んだ。 「これって…」 細長い縦長のプラチナに丸い模様が彫られ、その下にダイヤモンドが輝いている。 「裏も見てみろ」 言われて吉野は素直に裏側を見てみる。 そこには『Y to C with love』と彫られていた。 「その丸い模様も愛という意味なんだそうだ。 ダイヤモンドの石言葉は『永遠の絆』『純潔』『永久不変』だ。 千秋…」 羽鳥が吉野の手を取り、片足を立てて跪く。 「と、トリ!?何して…雪が…」 「俺をずっと傍に置いてくれるか?」 まるで童話の中の王子様がお姫様に求婚しているようで、吉野は首まで真っ赤っかになってしまう。 どうしてこいつは突然恥ずかしいことを平気でしだすんだ…!! 少女漫画編集の職業病か!? だがそんなことを胸の内で叫んでいても状況は変わらない。 吉野は小さい声で「…そ、傍にいろよ…ずっと…」と答える。 羽鳥が立ち上がった…と思う間もなく身体がふわっと抱き上げられる。 「こ、今度は何だよ!?」 「千秋、好きだ」 「え…?あ、お、俺も好きだけど…」 吉野が訳も分からず羽鳥にまた答えている内に、羽鳥は物凄い勢いで車に戻る。 キーを開けると吉野をバックシートに押し込む。 羽鳥は運転席でヒーターを入れると、自分もバックシートに乗り込んできた。 「千秋、好きだよ。好きだ」 羽鳥は吉野の唇を塞ぐとコートやセーターを剥ぎ取る。 「んっ…ンンッ…」 舌と舌を執拗に絡ませ、痛いほど吸い上げられる。 どちらのものとも分からない唾液が吉野の唇から零れる。 やっと唇が離されたと思うと、零れた唾液をしつこく舐められる。 羽鳥の舌が唇から顎、首筋へ下がってゆく。 そして羽鳥の指が吉野の胸の突起をぎゅっと摘んだ。 「ああん…っ」 吉野は自分の艶かしい声で我に返った。 自分は上半身素っ裸で、ここは野外の車の中だと。

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