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第1―11話
「馬鹿だなあ、ひよ。
サンタさんは今夜は忙しいんだ。
こんな所にいる訳ないだろう」
あはははと陽気に笑いながら、サッと桐嶋が日和の前に立つ。
「そうだけど…。
でも~…」
日和が納得のいかない顔をして、桐嶋の後ろを覗こうとする。
「ひよ、あっち見てみろ!
橋かな?
すげー綺麗だぞ!」
「えっ?どこ!?」
横澤が日和の目線までしゃがんで、桐嶋がいる方とは反対方向を指さす。
振り向いた途端に日和が満面の笑みになる。
「ホントだ!橋かなあ?綺麗~!!」
「だよなっ!
もっと柵の側まで行って見てみよう!」
「うん!」
横澤と日和が柵に向かって歩き出し、桐嶋がチラリと後ろを見る。
バタバタと赤い服の二人組が暗がりに走り去って行く。
桐嶋はホッと息を吐くと、日和と横澤の後ろ姿に目をやりながら歩き出す。
二人はいつものように、仲良く夜景を見ながら楽しそうだ。
桐嶋も横澤とは反対側の日和の横に立って夜景を見る。
確かに綺麗な夜景だ。
愛する娘と恋人と、粉雪が舞い散る中、夜景を見るなんて幸せだ。
幸せだと心から思うが。
桐嶋は自分の計画をぶち壊されて、正直残念な気持ちが消えない。
クソッ!!二度目のカーセックスのチャンスが!!
お袋に『サンタは一回消えた方がリアリティがあるから』とか無茶苦茶な理由で納得させて、ひよが寝てから3時間の留守番まで頼んでおいたのに!!
隆史のヤツ~~~!!
クリスマスディナーの話が出た時、羽鳥に見せて貰った夜景を二人で見に行こう、だから食事の時は酒はやめとくと言ったらピンときたらしく、俺に内緒でひよにあの夜景の画像を見せて、「食事の後、三人で綺麗な夜景を見に行こう」と言ってしまった!!
普段、特別なお出掛けでもない限り、夜にドライブに行ったことの無いひよは大喜びで俺に報告してきた…。
しかもクリスマス・イヴにわざわざ夜景を見に出掛けるのだ。
子供が…いや大人でも嫌がるやつはそういないだろう…。
桐嶋がボーッと無駄に終わった計画を思い返していると、微かに妙な音が聞こえてきた。
横澤も気付いたらしく「桐嶋さん、聞こえるか?」と訊いてきた。
「ああ、何だ?
何かが軋むような…」
すると日和が突然
「私にも聞こえる!
こっちだよ」
と言って走り出した。
「ひよ、待て!
雪で滑るから走るな」
横澤も追い掛ける。
桐嶋も「ひよ、走るな。危ないぞ」と言いながら日和と横澤の後を追う。
しかし1分も走らないうちに日和は立ち止まった。
「あれ~?音は聞こえるけど、何にも無い…」
そう言う日和の後ろで、桐嶋と横澤はため息をついていた。
日和が気付かない安堵と、ギシギシと揺れている車の中の連中に呆れて、だ。
たぶんあの揺れは良からぬ事をしているのだろう。
例えば…カーセックスとか。
高野も懲りないやつだな…
桐嶋はフッと笑うと日和に
「まだ夜景の写真撮って無いだろ?
みんなで一緒に撮って、そうだな…動画も録っとくか」
と言って、さり気なく日和の肩を抱き、夜景の方向に戻り出した。
日和も
「うん!そうだね!」
と楽しそうにニコニコと桐嶋を見上げて歩いている。
収まらないのは横澤だ。
横澤は拳をブルブルさせながら、揺れる車を見ていた。
政宗のやつ…またかよ!!
そんなにセックスしたけりゃ家でしろ!!
百歩譲って個室ならどこでもいい!!
なんでわざわざ車でヤりたがるんだ!?
横澤は屈んで雪をすくう。
粉雪はサラサラでなかなか固まらなかったが、横澤の手で隠れてしまうくらいの小さな小さな雪玉が出来た。
横澤はギシギシと揺れる車に走り寄ると、その小さな雪玉をフロントガラスに投げ付けた。
パシャ。
その小さな音は丁度射精した吉野は気付かなかった。
羽鳥も吉野の中で達したところで、吉野の中に入ったまま、フロントガラスに目を向けた。
そこには先程までと変わらず、雪がうっすら積もっているだけだ。
空耳か?
羽鳥はそう気にもせず、吉野の中から自身を引き抜く。
吉野が小さく「…あっ…」と声を上げる。
だが身体はピクリとも動かない。
それもそうだ。
なんたって三回もしたのだから。
吉野だけに限って言えば四回だ。
途中、快感に打ち震える吉野の余りのかわいさに、羽鳥はフェラまでしてしまった。
羽鳥はまず自身からゴムを外し、口を縛るとゴミ袋に投げ込む。
そして自身をウエットティッシュで拭いてから、服装を整える。
次に吉野のゴムも外してやり、同様に雄をウエットティッシュで拭く。
それから羽鳥は大きめのポットを取り出し、小さなバケツにポットの中の湯を注ぐ。
ポットの湯は37度の適温に調整済みだ。
そこにタオルを浸し、固く絞ると、まず涙に濡れた吉野の顔を拭いてやり、首から太股の内側まで、時折タオルを湯に浸しながら、羽鳥が愛撫した全身を拭いてやる。
吉野はやはりピクリとも動かないが、気持ち良さそうな表情をしている。
それから裏起毛のパジャマを取り出し、吉野に着せる。
動かない吉野にパジャマを着せるのは慣れているので、あっという間に吉野の着替えは終わる。
吉野をゆったりとバックシートに寝かせ、シートに敷いていたブランケットを吉野に掛ける。
一応その上から吉野のコートも掛けておく。
吉野は「…ん」と小さく呟いたかと思うと、寝息を立て始めた。
羽鳥は湯の入ったバケツを持って素早く後ろのドアから降りた。
そして湯を地面に捨てて、運転席に乗り込む。
羽鳥はゆっくり振り返ると、あどけなく眠る吉野に
「おやすみ、千秋」
と蕩けるように甘く囁いた。
「びっくりしましたねー」
「びっくりしたよなー」
雪名と木佐は走る車の中で何度も言い合っていた。
あの女の子の声が聞こえた瞬間、雪名は木佐の手首を掴みダッシュで走った。
木佐も必死に走った。
そして車まで戻ると、直ぐに車を発車させた。
粉雪の中、車はスムーズに進む。
ある程度落ち着くと、雪名が微笑んで言った。
「家に帰ったら、お風呂で温まりましょう。
それから冷えたシャンパンで乾杯はどうっすか?」
「うーいいねえ!!」
木佐が助手席でジタバタと喜ぶ。
赤信号で車が止まると、雪名が木佐に向き直る。
「それと今夜は、そのチョーカーだけを付けた木佐さんとエッチしたいです」
木佐は一瞬目を見開くと、妖艶に笑った。
「お前の好きにしろ、雪名」
「木佐さ…」
木佐の唇が雪名の唇に重なって、離れる。
信号が青に変わる。
雪名は真っ赤になって前を見据えると、アクセルを踏み込んだ。
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