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27 〜イーシップヂェッ〜
熱くなった石をジェミルが左手で運んでくれて、すぐにお風呂が沸いた。
先にジェミルを洗って次に自分を洗う。
のぼせないようにお湯はぬるめにしてあるけど顔が真っ赤で別な理由でのぼせそうだ。
「ジェミル、一緒に入っても良い?それとも先に出る?」
「う…あ…で…、出る…。」
「じゃぁ、身体拭いてあげるから少し待っててね。」
洗い場のイスに腰掛けて待っていてもらう。
こっちを見ようとしないので観察させていただきます!!
前見た時は暗い洞窟の中だったからはっきり見えなかったけど、均整の取れたしなやかに引き締まった男らしい身体。半勃ちでもじゅうぶん大きいアレ。
…舐めてみたい。
いやいやいやいや!
「おっ、お待たせ!寒くない?」
「大丈夫だ。」
身体を拭いてあげて自分も拭いて、もらった果物で作った果実水を飲んで部屋へ移動した。
「相談…て?」
あ…相談があるからって来てもらったの忘れてた。
おれは改めて仕事のやりがいについて悩んでいる事と、真咲にやり過ぎちゃった事を話した。
「やり過ぎた事についてはレンキがいるから大丈夫だと思うが、マサキの身の危険については警備隊…せめて隊長と副隊長には話しておいた方が良いと思う。勝手に話す訳にはいかないから説得して。」
「うん、説得する。」
「仕事についてはカドリと話してみれば良い。工房で見習いをさせてもらうのは良い事だと思う。」
「邪魔にならないかな?」
「見習いなんて役に立たなくて当たり前だ。」
…そっか。
まずは掃除とか荷運びとか、できる事からやらせてもらってがんばれば良いんだよね。
なるべく迷惑をかけないように、でもめげずに!
「うん!相談してみる!!」
気が楽になってジェミルに訓練の事とか怪我をした時の事とか聞きながら同じベッドで寝た。
…あれ?
やっぱりなんにもない。
何か覚悟を決めたような気がしてたんだけど…?あれ?
まぁいいか。スヤァ…
「今日の休み、真咲に謝りに行って、ついでに警備隊に知らせる事を説得したいんだけど、良い?」
「もちろんだ。馬車で行くのか?」
「うーん…歩くか馬車に乗るかしかないの?」
「馬に乗るか?」
乗馬!?
乗りたい!馬乗りたい!!
「でも見た事ないよ?」
馬車馬は見たけど人が馬に乗ってるのって見た事ないんだけど、何で?
「町の中では乗らない決まりなんだ。だから町外れの厩まで歩いて、そこから乗る。警備隊の馬を貸してもらおう。」
ジェミル、乗れるんだ!!すごい!
おれはウキウキしながら警備隊事務所へ行った。
…何かが違う。
馬車馬は普通だった、と思う。いや、よく見てないだけ?
色は茶色で首が長くて、大きさもそれなりに大きい。でも何か…ツノがある。ユニコーンじゃなくて、犀みたいな。
「ジェミル、怖くない?」
「俺はまだ大人しいやつしか乗れないんだ。こいつは大丈夫。」
「新人…お前こんな美人と2人乗りする気か?」
「はい。」
「っくぅぅぅ!羨ましい!俺もアイツと2人乗りしたい!」
またモテたのかと思ったけど、好きな人がいるのか。自意識過剰だった…。
でも何だか安心するなぁ。
「2人乗りできると良いですね。」
「おう!」
「お借りします。」
2人乗り用の鞍を付けてもらってジェミルの後ろに乗った。
「わっ!結構高い!」
「これは小型の中距離用だ。長距離用はもっと高いぞ。」
「へー!…でも、そっちだと乗れる気がしないよ。」
「気性も荒いから、無理して乗る必要はないだろう。」
馬って縦に揺れてお尻が痛くなるんだ…。
途中から腰を浮かせて対処したけど、今度は脚ががくがくで歩けなくなった。生まれたての子鹿状態です。
人の家を訪ねるのにお姫様抱っことか、なんだこれ?
レンキさん…驚かせて…いや、呆れさせてごめんなさい。
「こんにちは真咲に謝りに来たんだけど、初めて馬に乗ったら歩けなくなりました。会ってもらえるか、聞いてもらえますか?」
「………」
「あっ、真咲!! 昨日はごめん…。おれ、調子に乗ってやり過ぎたよね。」
「話は中で聞く…。」
そのまま抱っこで家に入って、イスに座ったらお尻が痛くてジェミルの抱っこに戻った。ジェミルが嬉しそうで眩しい。
「そんなにお尻痛いの?」
「痛い…けつバットされた時みたい…」
ふざけてやられただけだったけど手加減が下手なヤツだったからかなり痛かったんだよなー。俺は泣いてるのに周りは笑ってるし、悔しかったっけ。
「けつばっと…?」
「お尻を棒で叩くんだよ。本当は悪い事した時の罰なんだけどさ、子供同士でふざけて真似して泣かされて…」
「あの時は止められなくてごめん。」
「真咲は悪くないだろ?」
「でも…」
「じゃ、今回の件でチャラって事で!…ダメ?」
「ぷっ…良いよ。」
やっと真咲が笑顔になって、レンキさんの表情も和らいだ。
「それでさ。相談なんだけどやっぱり警備隊には存在を知らせておいた方が良いと思うんだよね。隊長と副隊長くらいには。」
「それはっ!」
「隊長も副隊長も簡単に結婚申し込むけど、断られても気にする人達じゃないから大丈夫だよ。」
なんたって隊長は賭けの対象になるレベルのヘタレだ。
最初に会ったのが隊長だったら親近感で好きになってたかも知れないけどね。
「俺もそうした方が良いと思う。街道に野盗が出てるし、この森に来ないとも限らない。」
「野盗!?…それは…だが…少し考えさせてくれ。」
ジェミルの「野盗」という言葉にレンキさんも 反応する。確かにあちこちに出てるみたいだからなるべく早い方が良いと思う。
「実はジェミルも警備隊なんだー。…見習いだけど。」
「なっ!」
「あ、騙した訳じゃないからね。おれ達、真咲がいる事知らずに来たんだから。」
「…そうだったな。」
真咲がお昼を作ってくれて、みんなで食べた。
なんと!!
カレーライス!!
「すげぇ!カレーが食べられるなんて、最高!」
「スパイスが色々あるからね。とは言え、ぼくのオリジナルのなんちゃってカレーだけど。」
「どこがだよ!?完全にちゃんとしたカレーだって!まぁ、日本のカレーじゃなくて本場のカレーっぽいけど?」
「ご飯も違うしね。」
気候が違うから仕方ない。
椅子だと痛いので染物を干す丸太の干し台を持って来てもらって太ももの付け根あたりで腰掛けて食べた。
「真咲、料理できてすごいなー。」
「満は料理しないの?」
「…出来ないから外食だよ。」
「お金、大丈夫なの?」
「みんなタダにしてくれるよ。おれがいると客寄せになるから、って。後は警備隊宿舎の食堂で後払いとか。」
食後もしばらくはそんな話をして帰ろうとしたらレンキさんがクッションをくれた。染めムラができた失敗作に綿を詰めたクッション。ありがたく鞍につけたら、かなり快適だった。
「あ!粉にしたアチェクの実をもらおうと思ってたんだ!ごめん、戻ってくれる?」
「あぁ、大丈夫だ。」
実験用にある程度欲しいからね。
…誰かいる?
[ジェミル、なんか怪しいヤツが居なかった?]
[アイツ…!野盗だ!]
声を潜めて聞けば、エルとジェミルを襲ったヤツらしい。いきなりのお出ましとは…。
[仲間は一緒かな?]
[今は見当たらないが、近くにいる可能性もあるな。]
[…辺りを確認しよう。]
[1人になるのは危険だ、一緒に行こう。]
腕に覚えのないおれは、一も二もなく頷いた。
馬を降りて離れたところにつなぐ。
危険が迫った時に自力で逃げられるようにゆるくしておいた。
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