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第1話-2

 部屋に入ると、制服のネクタイを放り投げて、佑はいつものようにベッドに座った。珠樹はすこし距離をあけて、なぜか床の上に正座している。じわりと佑の中に黒い靄のようなものが広がった。 「んで、お前は俺とどうしたいわけ?」 「……えと、じゃあ、つきあってください……!」  なんて爽やかで純粋そうなんだ。  佑はその汚れのなさに、くらりとめまいがした。泣かせてやりたいと、八つ当たり気味な思いがむくむくと湧き出る。気味というか八つ当たりだ。  珠樹は目をぎゅっと閉じて、ひざの上の拳を固く握りしめている。その姿に以前の自分を重ねそうで、無理やり思考を握りつぶした。 「それだけ?」 「えっと……」 「つきあうってのは、キスとかしたいって事?」 「キ……」 「ちょっと試してみようぜ」 「う、うん……」  少し前にかがんで珠樹の頭を抱き寄せる。軽く唇を押し当てると、ふにっと意外にも女と変わらない感触が返ってきて、佑は、お? と思いながら、すぐに珠樹から離れた。 「ああ、やめやめ。やっぱ無理だわ」  その言葉に珠樹は少しうつむいた。  じっと見つめていると、足をもじもじと動かし始めた。斜め下をキョロキョロと見ている。きゅっと引きむすんだ口は、ともすれば笑みに変わりそうな自分を抑え込んでいるように見えた。  ……こいつなんで喜んでるんだ?  今、男は無理だってはっきり言ったよな……?  佑は戸惑いながらも、さらに意地の悪い事を言ってみた。 「……いつも俺を妄想して一人でやってんの?」  その言葉に、珠樹はばっと顔を上げる。何かを言いたそうに口を小さく開いたが、何も言わなかった。佑はその様子を見て調子づく。 「やって見せて」 「え……?」 「妄想じゃなくて、目の前に俺がいるんだぞ。嬉しいだろ?」 「…………」  ちょっとやり過ぎたかと、一瞬口を閉じる。ただ困らせてやりたいだけだったので、すぐに冗談だと笑おうとした。 「……わかった」  え? わかったの!?  思いもしなかった言葉を受けて、佑はしばらくの間固まった。  珠樹はカチャカチャとベルトを外し、ごそごそ自分のものを取り出している。慌てて止めようとして、なぜかぎしりと体が動かなくなった。見たいわけではないのだ。それなのに目が離せない。  上目づかいでちらちらとこちらを見ながら手を動かしている珠樹を、呆然と眺めていた。  なにこのエロい感じ。    ちらりと見られるとぞくりとする。息があがってきた珠樹は、囁くような声を漏らした。 「…………佑……ちょっと、こっちに……」  来て。と言われて、佑はのこのこと珠樹の側に近づいてしまう。珠樹は佑のシャツの胸元を強く握り締めて、頭を肩に落とした。  息がさらに荒くなっている。  目を閉じて眉をひそめている姿に、佑はごくりと唾を飲み込んだ。 「……佑…………っ」  ぎゅうとシャツを握る手に力が入り、もたれかかるように頭をこすりつけられて、背筋が粟立つ。  この信じられない状況に、自分で言っておきながら、佑は動揺していた。意地の悪い冗談のつもりだったのだ。それなのに。  ぶるりと体を震わせて、珠樹が長い息を吐く。  え? え? マジでイッたとか? 「あ」 「あ?」 「わわ、ごめん」  珠樹の視線を追うと、佑のシャツにべっとりと彼が今吐き出したものがついていた。珠樹が慌ててティッシュで拭く。 「おま、ふざけんなよ!」  くそっと言いながら、ボタンを引き千切るようにしてシャツを脱ぐ。珠樹は佑の体に見とれていた。すこしも恥じ入っている様子がない。 「これ捨てるからな!」 「……もったいない……」  こいつ小声でもったいないっていいやがった。 「なにがだよ! ついてんのお前のだよ!」 「だって、佑の匂いが……」  これをどうやってどうするつもりだよ。  床に放り出していたコンビニの袋にシャツをぎゅうぎゅうと押し込んで、口を思い切り締めると、ゴミ箱に叩きつけた。  しょんぼりと肩を落としたって、嫌なもんは嫌だからな!

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