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第1話-3
「わたし結婚するの」
その言葉に、佑は唇をかんで拳を握り締める。
彼女がさらりと髪をかきあげ、うなじがちらりと見える。その首に色気を感じてしまう自分に嫌気がさした。
強引に押し倒せば、また戻ってきてくれるのだろうか。いくら高校生と言えども俺も男だ。彼女を組み伏せる事など簡単だ。
でも、そんな事が出来ないから、俺はフラれるんだろう。
彼女の柔らかい肌を思い出して手を伸ばしかける。あんなに乱れていたのは演技だったのか。そうは思いたくない。
……結局、セックスの事ばかりじゃないか。当然か。それしかしてない。外に出て一緒に歩きたいという願望は柔らかくはぐらかされた。
大人になったら考えるね。なんて。
俺は子供じゃないと言うほど子供じゃない。
じゃあ何て言えばよかったんだ。
どうすれば引き止められたんだ。
どうすれば、俺のものになったんだ……。
背を向けている彼女を後ろから抱きしめて、うなじに顔をうめる。ふわりと香る彼女の匂いに体が熱くなる。
彼女は小さく笑ってこちらを向いた。
「これで最後よ。かわいい子ね」
唇をそっと重ねられ、俺は彼女を突き飛ばした。
愛しい気持ちが憎しみに変わる。そんな瞬間を味わう事になるなんて。
胸ぐらを掴んで頰を張りたくなる。全てを壊したくなる。
こんな女。ばらばらになって死んでしまえ。
なんて思えたら、楽になるんだろうか。
愛しい。愛しい。
この人が愛おしくてたまらない。
胸が焦げるようなこの想いは、彼女に伝わらないのなら一体どこに行くのだ。
幸せになって欲しいと思えるほど、俺は大人じゃなかった。
ああもう、気が狂いそうだ。
「今までありがとう。楽しかったわ」
そんな言葉で、俺の想いは踏み潰され、俺は彼女に背を向けて教室を出た。ドアを閉めると、背中を預けてずるずると座り込む。
情けない。
唇を噛み締めて嗚咽を飲み込んだ。
あんたが本気じゃない事ぐらいわかってた。
でも俺は。
本気だったんだ……。
泣く暇すらなかったな……。
幼馴染がゲイで俺を好きでした。なんて、人生本当に何が起こるかわからない。しかし、彼女にフラれてむしゃくしゃしてた俺は、関係ないのに珠樹に八つ当たりした。
あいつにとっては、人生をかける程の告白だったに違いない。もっと真摯に向き合うべきだったのだ。
それなのに。あんな事させて、珠樹を泣かせようとした。泣かなかったけど。
いやもうほんと、バカだ、俺。
大事なものをもう一つ無くす気かよ……。
「なにしてるんだよ、俺は!」
枕を顔に押し当てて、ごろごろとベッドの上で悶えた。
あいつに合わす顔がねえ。
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