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第2話
恐る恐る玄関のドアを開け、迎えに来た珠樹の様子を伺う。昨日うやむやで終わってしまっていたが、調子に乗ってとんでもない事をさせた事実は消えない。そもそも迎えに来た事に佑は驚いていた。
「おはよう」
珠樹は門の向こうで満面の笑みを浮かべていた。ホッと息をつく。
「おはよ」
ぼそりと返事をして肩を並べると、少し佑の方へ体を寄せてきた。じっと見ると顔を赤らめる。
可愛い顔しやがって。
中性的な珠樹の顔立ちはかわいいと評判で、少なくとも校内の女子には大人気だった。だからといって小柄なわけでもなく、そこそこ上背もある。佑にとっては自分より低いのが救いだった。年齢とともにどんどん背が伸びてくる珠樹にヒヤヒヤしたものだ。モテてモテて仕方ないだろうに、今まで浮いた噂が無かった事を怪訝に思っていたのだが。
まさか俺が好きだったとは。
「ねえ……今日映画観に行かない?」
普通に誘ってきた。
こいつ怒ってないんだろうか……。
「ああ、観たいのあるって言ってたな。いいよ」
「……やった……」
とりあえず平静を装って答えた佑は、ふるふると手を震わせて、ホッとしたようにため息を吐いている珠樹を見た。目を閉じて指先を合わせている。顔中が笑みであふれていた。
「……ずいぶん嬉しそうだな」
「ふふ、初デート……」
「違うし!?」
あれ? 付き合ってることになってない?
俺、女が好きっていったよな?
……ん? そういや俺、断ったか?
「じゃあさ……帰りに佑の家寄っていい?」
「なんでわざわざ聞くんだ? いつも来てるじゃん」
「じゃあ、あのね、今度は……佑のさ、一人でしてるとこ見たいなーって」
じゃあって何!? 何言ってんの!?
自分で同じ事を言ったくせに、佑は思い切りうろたえた。ゴニョゴニョと口の中でつぶやいている珠樹は、照れて真っ赤になってはいるものの、前言を撤回する気はないようだ。佑は、珠樹の中では、昨日の出来事が何か違うものになっているような気がした。少し怖い。
「嫌に決まってるだろ!」
「えー……」
むうと頬を膨らませているその顔がちょっと可愛かったりするから目の錯覚だよな!?
俺さっきから可愛いって思ってない?
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