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第3話

 うっかり押し倒されて以降、珠樹は隙あらば佑に触れてくるようになった。  髪をすくい上げて匂いを嗅いだり、唇に指を押し付けたり。どさくさに紛れて抱きついてくるし、頰をよせあったり、耳元に触れるほど口を近づけてきたりする。なんなら少し舐めている。首筋を指でなぞり、腰に手を回してきたりした時は、そのうちこいつケツでももみだすんじゃないだろうかと思った。まるでエロおやじだ。  佑は珠樹に翻弄される事に疲れきっていた。 「ねえ……」  耳元で囁かれ、息がふきかかる。びくりと身を引くと、座っていた椅子ががたんと大きな音を立てた。一瞬周りの視線がこちらに集まる。教室で昼食をとっている最中で、ぼーっとしていた佑は何が何だかわからない。ごそごそと椅子を戻し、聞いていなかった事に少し不満そうな珠樹を見た。 「何」 「からあげ食べる?」  いやいやいや、それ耳元で囁くセリフ?  でも食べる。佑は手でつまみ上げようとして、珠樹の箸に邪魔された。  一つつかむと、「はい」と突き付けてくる。せめて手で受け取ろうと手のひらを上向けると、珠樹は無視して佑の口元に持ってきた。有無を言わさぬ笑みでぐいぐい差し出してくる。仕方なく口に入れると、珠樹は満足げに微笑んだ。  周囲がざわつく。女子なんかはきゃーきゃー言っている。  いや、そりゃそうだろ。何してんだよ。  一番厄介なのは、周りに人がいない少し目立たないところで、キスをしようとしてくる事だ。さすがに佑はそれを許さないが、大してめげた様子も見せずにぐんぐん引っ張って、人気のないところに連れて行こうとする。  今だって、校舎裏の木の陰などという、何の必要があってそこにいくのだ、とつっこまれそうな場所に無理やり連れてこられていた。 「お前、いい加減にしろよな」 「ん……? 何が?」  言いながら、体重を預けるように佑を木に押し付けて、頬にそっと触れた。どきりとしてしまう自分が憎い。珠樹はぎりぎりまで顔を近づけて、ふっと笑った。 「なんで外でしようとするんだよ」 「我慢できないから」  えへへと笑う珠樹を呆れた顔で見下ろした。 「……我慢しろよ……」 「えー……。今までずっと我慢してたんだよ? ちょっとぐらいいいでしょ?」 「ああ……まあ、そうか……」  一瞬納得しかけるが、いやいやいや、と思った。 「よくねえよ!?」  むうとふくれてみせるが、もうそんなものには騙されない。  佑は力任せに珠樹の肩を押しのけた。 「誰かに見られたらどうするんだよ!」 「え、じゃあ誰にも見られなかったらいいんだね!?」  きらきらと今にも光り輝きそうな笑顔を見せて、佑の腕を引っ張る。 「早く帰ろ! 早く早く!」  ポジティブすぎて笑えねえ。

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