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第6話-3

 言うなり、どさりとベッドの上に押し倒された。珠樹が顔を寄せて、むさぼるように唇を吸う。舌を差し込んで、絡めて、何度も口づけしながら、もどかしそうにネクタイを引き抜いた。  唇が離れ、どちらともつかない熱い吐息がもれた。呼吸をする間も惜しむように再び唇を重ね合わせ舌を絡める。珠樹の肩をつかんでいた佑の指がふるふると震える。珠樹が顔を離すと、佑は大きく息を吐き出した。 「ごめん、苦しかった?」  涙をにじませた佑の目のふちが赤く染まっている。彼の喉がひくりと震える。小さな声で名前を呼ばれ、珠樹は切羽詰まった顔をして、佑の頭をかき抱いた。  珠樹がそっとベルトに手をかけると、佑はひっと息を吸い込みぎゅっと押さえて首を振った。 「やめ……」 「大丈夫。怖いことは何もしないから」  そっと手を覆われる。その優しい声音に、佑は恐る恐る手を離した。かちゃかちゃとベルトを外す音がする。下着とともに服を少し下げられ、佑の体が緊張した。  再び口づけられ、敏感な部分を撫で上げられる。ぞくりと背筋が粟だって、佑はぎゅうと珠樹の肩を掴んでいる手に力をこめた。首筋を吸われ、耳を舐められ、びくりと体が震える。主導権を握られていることに恐れを感じ、佑はぐっと息を詰めた。  何度も何度も熱を持った部分をこすられ、体がそれに合わせて跳ね上がる。ぎゅっと唇を噛んで、珠樹から顔を背けた。  ひたりと、あらわになった珠樹のものが佑のそれに押し当てられる。何をされるのかわからなくて、佑は怯えた。下を見ると、二人のものが重なりかすかに脈打っている。ごくりと唾をのみ下し、恐る恐る珠樹を見上げる。 「ここ、握ってて。僕が動くから」  ぎゅっと両方を握らされて、ゆるゆると動いて擦られる。自分でしているのとは違う、なんとも言えない感触がして、思わず手を離そうとした。 「大丈夫。怖くないよ。ほら」  もう一度握らされて、佑は軽く呻く。深く口づけられ、腰を動かされると、めまいがした。少しずつ息が上がり、でも恥ずかしくて、佑は声を押し殺す。唇を噛んで、顔を背けて、ぐっとたまに漏れる吐息に鳥肌を立てた。 「佑……声我慢しないで。聞かせて……?」  息を吐き出すと、あっと声がもれた。  かあっと顔を真っ赤に染めて珠樹の視線から逃げる。 「ねえ、こっち見て。ねえってば」  ゆるゆると見上げると、眉間にしわを刻んで、快さに口を歪めた珠樹と目があった。どくりと、体が脈打つ。  クソ。なんて顔するんだよ。  自分が今どんな顔をしていて、そしてそれを見て珠樹はどれ程興奮しているのか。考えると体が熱くなる。快感が全身にほとばしる。だんだん何も考えられなくなっていく。頭が真っ白になって、熱をもった部分だけが赤く焼けているようで、それだけが自分自身のような気がした。 「一緒にいこ……?」 「ね?」と耳元で囁かれ、佑の顔はぶわっと真っ赤になった。全身に鳥肌がたつ。  珠樹のこんなにも甘い声を佑は知らない。滑らかな肌も、熱い吐息も、あやしくうねる腰も、肌をなぞる舌も、何もかも。  興奮が伝わったのか、珠樹の動きも性急になる。呼吸が荒くなり、溶け合い、思わず上げた声はどちらのものなのか。すべてが混ざり合って赤くただれていった。  絶頂に達して吐き出した互いの体液がどろりと滴る。腹に落ちたそれを珠樹が指ですくいあげて、佑はびくりと体を震わせた。珠樹がふっと笑う。 「佑かわいい……」  可愛いのはお前だよ……。  佑は、珠樹の頭を引き寄せてキスをした。  珠樹がもう一度笑うと、てきぱきと後始末をしていく。きっちりベルトまでしめて元に戻すと、珠樹はぎゅっと佑を抱きしめた。 「ごめん、僕もう帰るね」 「えっ」と思わず声を上げる。  珠樹は少し悲しそうに微笑んで、立ち上がった。 「……我に返ったとこ、見たくないから……」  ぼそりと呟いた珠樹のその言葉は、佑には届いていなかった。  パタンと閉まったドアをぼんやりと見つめ、佑はしばし思考停止する。  そしてじわじわと思い出し、頭の中を駆け巡るハイライト。珠樹の快感に歪んだ顔が脳裏に浮かび、ぼんっと頭が爆発した。ように感じた。  え? え?  今何してた俺?  珠樹と、ヤッ……ヤッ……?  ヤッたって言うのか、あれ?  いや、でも。  あの顔は反則だ。  可愛すぎるじゃねーか。  って思ってる時点で、もう持ってかれてるよな……。  まあ、気持ち……よかったし……な。  そう考えてしまってから、顔を真っ赤にした。  枕に頭を埋めて、火照った顔が冷えないかとぐりぐりと押し付ける。じんわり枕が暖かくなっていくだけだった。  そしてはたと思い出す。  珠樹に告白された日も、あまりに衝撃的すぎて、彼女にフラれた事など上書きされてしまった。  もしかして、わざと、とか……?  何かに背筋を撫でられたようにぞくりとした。  あんな、人生を壊しかねない告白を、俺のためにしたってか?  あいつどんだけ俺の事好きなんだよ。  可愛すぎるじゃねえか。ちくしょう。

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