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第6話-4
ドアを後ろ手に閉めて、珠樹はずるずるとその場に座り込んだ。
なんていい声で鳴くんだろう。
なんて甘い表情ですがりついてくるんだろう。
はあと息を吐き出して、口元を両手で覆った。上を向いて、涙を堪える。
きっとすぐに、佑は我に返り、さっきの行為を思い出して嫌悪することだろう。もう二度と、前のようには戻れないかもしれない。
佑は流されやすい。弱みに付け込んだも同然だ。
でも、あの言葉に、自制が効かなくなった。
珠樹を失いたくないだなんて。
大切にされているとは感じていたけれど、言葉にされるとたまらない。あの教師よりも珠樹が大切なのだと言われたようで、理性が焼き切れた。
抱き合えた事がこの上なく幸せで、この上なく恐ろしい。
ふるふると震えて、もう一度顔を覆う。涙が染みて目が痛い。細く深いため息が漏れた。
もっと一緒にいたかった。
甘い時間を味わいたかった。
でも怖い。
目の前で我に返られ、嫌悪に歪んだ表情など見たくない。
一度だけでも肌を合わせられたのだ。
十分幸せだ。
これ以上、欲張ってはいけない。
もう一度ため息をつくと、立ち上がり、佑の家から出ていった。
赤く染まった空を見上げる。
また涙が溢れ、今度はこぼれ落ちていった。
どうか、嫌いにならないで欲しい。
無かったことにされてもいいから、どうか、側にいさせて欲しい。
途方もない願いを抱え、涙を拭うと歩き出す。
明日も笑って、佑を迎えに行こう。
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