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第3話「翼と鎖」
「知覧がどういう場所か分かってるのかッ!」
レイテ島に向けて飛び立った零戦は、帰ってこなかった。
鹿児島県 知覧飛行場を離陸する戦闘機は片道の燃料しか積んでいない。
「分かってんのかッ!アァッ!」
敵の空母目掛けて、突っ込むのだ。
機体を弾薬にして。
我が身もろとも。
己が命を爆弾に。
特攻をかける。
たった一つの命を……
捨て身にして。
捨て石になる。
「特攻隊に選ばれたのは、俺の操縦技術が優秀って証だな」
「死ぬんだよッ!」
山本の体が吹っ飛んでいた。
手を振りほどき、握りしめていた体温を振りほどいて。
気づいたら、山本の体が地面に倒れていた。
拳が震えている……
「ッ痛ぇな」
膝を立てた山本が、血の滲 んだ頬を押さえている。
本気で殴ったから。
拳が痛い。
「お前、死ぬんだからな……」
爪を立てた掌が、血を流している。
「あぁ、そっか。俺、死ぬんだ……お前に言われるまで気づかなかった、ハハ」
嘘だ!
悔しい。
苦しい。
痛い。
「ヘラヘラすんじゃねェ」
一向に立ち上がらない山本に業を煮やして、俺は再び胸ぐらを掴んでいた。
地面に膝をついて。
跪いて。
なんでだ?と問いかける。
嘘をついて。
なんにも言わなくて。
教えてくれずに。
どうして、俺を頼らないんだ。
許しを請うている。
(お前が教えてくれたら……)
何も言わなかった理由を。
俺を頼らなかった理由を、教えてくれたら。俺は、この苦しさから解放される。
それなのに。
何も話さない。
黒瞳を揺らしただけで……
憎い。
憎悪する。
その強情さに。
ハァハァハァ
心臓が痛む。
胸ぐらを掴む手が、震えている。
上手く紡げない呼吸で、俺は宣告を下した。
「父に言う」
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