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第4話「縛られる声」
それしか方法がない。
俺が関東軍に配属され、満州にいるのも父の力だ。
藤堂家は代々軍医として、要職に就いてきた。軍の上層部にも顔がきく。
俺が戦地に従軍せず、満州で医学の研究に携わっているのも、裏で父が手を回したからに違いない。
不本意ではあるが。
(利用できるものは何だって、利用してやるさ)
「父に頼んで、お前を特攻隊から外してもらう」
手段を選んでいる暇 はない。
「いつだ?」
お前が知覧に向かう日は。
「いつなんだ!」
答えない山本に声を張り上げたが。
けおされたのは俺の方だった。
襟首を掴む俺の手を、ぎゅうっと力強く握り返されて。
真っ直ぐな黒瞳に、意識が吸い込まれていた。
「なんで、分かってくれないんだ?」
(分かってないのは、お前だろ!)
「何度言えば分かる」
知覧に行けば。
「お前は」
「俺は」
死ぬ。
「……かも知れないけど。お前を守れる。やっとお前を守る事ができるんだよ」
俺の願いが叶うんだ。
「俺を知覧に行かせてくれ」
曇りのない目が、俺を見つめる。
そんな目で。
そんな目をして。
本気で思っているのか。
「俺はお前に守られるほど弱くない。むしろ今は、お前を守るのが俺だ」
折れろ。
折れてくれ。
手立てはあるんだ。
父を通じて、上官から知覧行き中止の命令が下っても、本人が突っぱねては元も子もない。
そうなったら、もう打つ手がなくなる。
知覧に行けば、満州 には戻って来られない。
二度と日本の土を踏む事はないんだぞ。
「山本!」
今なら何とかなる。
俺に任せれば何とかする。
「言う通りにしてくれ」
わしゃ……と。
大きな掌が俺の髪を撫でてきたのは、その時だった。
「なぁ、藤堂」
声はこれから死地に赴く者だとは思えないくらい、ひどく優しい。
「俺が行かなければ、誰が行くんだ?」
風が頬を撫でる。
「俺の知ってる奴か。お前の知り合いか。見ず知らずの奴か……」
誰かが行くんだ。
「誰かが代わりに、知覧で零戦に乗るんだよ」
風が吹く。
草の匂いがつん、と鼻孔の奥を刺した。
「誰かが行かなくちゃならないんだ」
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