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第7話「泥の夢」

『マルタ』とは被検体を指す。 関東軍防疫給水部本部 通称731部隊 医療による軍の衛生管理が特務である。 ……とは表向き。真の目的は…… 生物兵器の開発 この戦争は泥沼だ。 マルタとなった捕虜を細菌感染させる人体実験。 何人も何人も、何百人も何千人も殺して、たった『一個』の生物兵器を製造する事に希望を見出だす狂気だ。 泥沼にはまっていく。 そうまでしなければ、日本は勝てない。 こんな馬鹿げた兵器が、勝利を導くと本気で考えている。 誰だ! 戦争したがる奴は! なんで戦争したいんだ!お前たちは! こんなレールから飛び降りてしまいたい。 (なのにっ) 俺は生物兵器の成就を望んでいる。 成功すれば戦況は一転する。山本も零戦に乗らずに済む。 浅はかだ。 身勝手だ。 すがりつきたい。 悪魔の希望でも。 人体実験の途上で細菌感染を繰り返せば、抗体が生成される。 これは副産物だ。 死なない命への第一歩となるかも知れない。 けれど、山本。 お前は無くなっちまうんだ。 肉も、骨も。全部。 死なない命が完成したとしても、もう遅い。 (こんな現実、耐えられるかッ) 「俺が救いたいのは、お前じゃない!」 ベッドに眠るマルタに針を刺した。 感染前の状態が良くないとの報告で、治療にあたったが。 回復すれば、細菌感染だ。 お前は数字になる。データという数字になるんだ。こんな命を助けてどうする? ぽたり 白熱灯の下で、点滴の液が揺れ蠢いている。 (狂っている) 戦争という毒を飲んだ体は、もう戻れない。 毒に浸食されていくのだ。

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