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第9話「海の向こうに」
夜
月明かりはどこまで影を伸ばすのか。
雲の淵に、浮かぶ朧……
「特攻で死ぬと靖国に行くんだってさ」
他人事の口調がささめいた。
「体は海に沈んで、魂は靖国神社に戻って、英霊ってのになるらしい。神様みたいなものなのかな。……俺は、そんな神様になりたくない」
死にたくねぇよ
「俺、死ぬのが怖い」
わずかに吐息が乱れている。
「でも……死ななきゃいけないんだったら、靖国なんか行かねぇ」
白くなった指先に力がこもった。
「不思議だな。お前のここ……心臓の音聞いてると、落ち着くんだ。すげぇ安心する。
俺は、お前の元に帰ってくるよ。お前の心臓の音の聞こえる傍がいい。
ここが、俺の帰る場所だと思うから」
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