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第11話「赤い飴玉」

「藤堂は……」 どれだけ時が過ぎただろう。 月明かりが優しかった事を覚えている。 「無防備すぎ」 唇を指の腹が撫でて。 パクリ 小さな硬い物を口に入れられた。 (甘っ) 莓? 飴、だ…… 「俺はいなくなるから。黙ってようと思った。惑わせるだけだから」 あたたかい湿った感触が、唇を塞ぐ。 掠めた唇は、すぐ離れて。 真っ直ぐな黒瞳が触れている。 俺の意識に直接…… 「好きだ。世界で誰よりも一番、お前を」 大切に思っている。 甘えさせてくれ。 お前を幸せにできない俺だけど。 別れの曲を歌う声が、別れじゃないと感じたから。 本当の気持ちで、ずっと一緒にいたいんだ。 「別れない。いつまでも」 親友じゃなくて。 幼馴染みじゃなくて。 偽らない気持ちで、共にいたい。 「返事はいいよ。ただ俺がいるもう少しの間、俺だけを想ってくれると嬉しいな」 山本は卑怯だ。 何も言えないよう飴を舐めさせて。 こんなにも俺は…… 幸せなのに。 「一緒に舐めればいいだろ」 そんなふうに想ってくれるなら。 「この飴、一緒にお前と舐めたい」 微かに息を飲む声がした。 ぎゅっと抱きしめられる。 舌が差し込まれて、飴ごと口内を蹂躙する。 深く、深く。 キスの仕方なんて分からない。 舌を絡めて、互いに互いをむさぼり合う。 俺は幸せだ。 こんなにも求められて。 幸せだから、涙が零れた。

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