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第32話
「一緒に入ろー、俺ー酔ってるからな~、一人じゃコケる…ぜったい、いいだろー?」
「…ヨシ、ルードを困らせるなよ」
みずきはヨシにそう言い聞かせてトイレと風呂の方へ向かって行ってしまう。
「困らせてなんかねぇよーだ、ルード、人んちだから何もしないからさぁ、成長した姿みてーんだよ、俺っ!」
「ははっ」
酔っ払って、こどものようにお願いしてくるヨシが可笑しくておもわず笑ってしまうルード。
「なんだよ~?急に笑うなよ、真剣にいってるのに~」
顔をしかめて抗議するヨシ。
「いいよ、仕方ないから酔っ払いの面倒みてあげる…」
苦笑いしながらルードが答えると…
「やったー!」
ヨシはオーバーリアクションで喜んでいる。
ヨシとルードが盛り上がってるころ、みずきは脱衣所から浴室にいるアキラに声をかける。
「アキラ?大丈夫か?」
「んー?みずき?」
のんびりしたアキラの声が返ってくる。
「あぁ…平気か?気になって…」
みずきは、少し安心して言葉を続ける。
「…ふふ、ちょうどよかった」
みずきの心配症は一生なおらないだろーな、と思って笑ってしまうアキラ。
不意に浴室の戸を開けて顔を覗かせる。
「アキラ?…あがるのか?」
急に出てくるのかと、驚いて視線を外すみずき。
「みずき?ちょっと髪洗ってほしいんだけど…」
みずきの動揺などおかまいなしのアキラ。
「え…?」
唐突に言われて一瞬、言葉に詰まる。
「…酒飲んだからかわかんねーけど…なんか指先が痺れてさ、腕が怠いからシャンプーしてくれると嬉しいんだけど…明日出かけるし…」
もう一度、苦笑いぎみにいう。
「あぁ、そんなことなら…いいよ」
みずきは優しく言葉を返して頷く。
「ウン、ありがと」
ニコっと可愛い笑顔を浮かべ、みずきを呼ぶアキラ。
みずきは靴下を脱いで、裾をまくって少し心拍数をあげながらアキラのいる浴室へと入っていく…
アキラは腰にタオルをかけただけの姿で風呂用の小椅子に座ってこちらを見て…
「よろしく~」
みずきに笑顔で頼む。
「あぁ…アキラ、その、肩にもバスタオルか何か掛けてくれないか…」
「なんで?」
きょとんと見上げるアキラ。
「……目のやり場が…」
色白の綺麗な身体を目の前にさらされては…
かなり目のやり場に困るみずき。
まいった風にいうが…
「やだ、洗濯物増えるだろー」
アキラはマイペースに答えて前を向く…
「…わかった」
アキラの答えに苦笑いしながら、髪を洗いはじめるみずき。
出来るだけ身体に瞳を向けないように…心を落ち着かせて…
「みずき…」
アキラはしばらくしてポツリと言葉をかける。
「ん?何?アキラ…」
すぐに優しく答える。
「みずきはオレと別れてた時、女の子と付き合ってたんだよな…どうだった?」
ややおとなしめの声でさらっと聞いてくる。
「アキラ…」
なにをいきなり言うのかと顔をしかめる。
「女の子と、はじめて付き合ったんだろ?どうだった?キスとかした?」
みずきに髪を流してもらいながら再び問う。
「…何もしてないよ、あの時は俺も賭けていたようなものだったから…」
仕方なく答えるみずき。
「賭け?」
軽く首を傾げる。
「…そう、アキラを、忘れられるかの…」
みずきは静かに答える。
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