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第89話
「待ってるよ、1人で家に居たところでつまらない…向かいの店にでもいるから…」
みずきはアキラに近づきそう伝える。
「…もぅ、勝手にしろよ」
なんだか決めてしまっているみずき…
何を言っても来そうなみずきを見て、ツンとした顔で頷くアキラ…
「あぁ、ようやく終撮…」
この撮影が終わってしまえば、アキラを…自分だけで独占できる。
アキラの頬に触れ…伺うように囁くみずき…
「ようやくって…そんなにヤだった?」
アキラはからかうように聞く…
「当たり前だ…他の奴には触らせたくない、いつだって…」
アキラの手をひいて自分の胸へ抱き寄せる。
「困った奴だな…」
そう呟きアキラはみずきの胸に頭を預け…静かに思う。
みずきに想われて過ごす日々…
毎日、人の温かさを感じることができる…
とても幸せなことだけど、漠然とつきまとう不安感…。
自分がどれだけみずきを必要としているのか…
必要としてしまっているのか…
離れてみないと分からない…。
みずきの事を本気で好きになれないから…
みずきと一緒にいることが、当たり前にならないように…しないといけない…
ここは寄り道の場所に過ぎないから…。
毎日、こんなにも優しくされているのに…
みずきを信じる事ができなくて…
つらい…
最近は…早く離れることばかり考えているような気がする…。
それは将来のこと…
不安に思っている証拠…
分からない事ばかりで…何が大切なことなのか見失いかけているから…。
自分の将来のこと…
みずきの将来のこと…
みずきに迷惑をかけてまで一緒にいるべきなのか…
そう考えると、今一緒に暮らしていることが、いいことじゃないのは確かなのだから…
「困った奴…?どうして?」
アキラの呟きを拾ってみずきは聞いてみる。
「ん?…みずきは、オレを甘やかせすぎだから…困った奴」
「…そんなことはないと思うけど…」
そうみずきは首をかしげる。
「自覚ナシ、重症!」
みずきの額を軽く小突いて、微笑み離れる。
心に思うことも伝える時期を引き伸ばして…
ホント甘えてる…
「アキラ…」
「さ、メシ食べようぜ…」
そう微笑んでみずきを呼ぶ。
そんなアキラの心の内を知る由もなく…
すたすた歩いてキッチンに向かうアキラに頷いて、いつものように優しく手伝うみずきだった。
《困惑の終撮》終
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