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第91話

「ふぅ…」 やっぱり、すぐには帰れそうにないな… アキラは溜息をついてミーティングルームへ急ぐ…。 「おはようございます…」 挨拶して部屋に入るアキラ。 「おはよー、はい、台本。終撮だから、ちょっと長めの話しになるよ…最後だからって気を抜かないようにね」 待っていた撮影助手が、台本を渡しながら声をかけてくる。 「…はい、お願いします…あの、カズキは?」 今日の撮影相手が見当たらないので聞いてみる… 「あぁ、カズちゃんなら、だいぶ前に来て…奥で台本読んでるよ」 「そうですか…」 頷いて向かおうとするアキラに助手は… 「あ、なんかカズちゃん、珍しいことに無口だったな、機嫌悪かったのかな?」 撮影助手は首を傾げて言う。 「え…、そっか…」 カズキには辞めること、全然伝えてなかったから… いきなり終撮の相手に指名されて戸惑ってるよな。 そう思いつつ、奥の控室へ入っていく… 「…おはよ」 座って台本に集中していたカズキに…静かに声をかける。 「……、ホントなんスね…サクヤ先輩が、終了撮影って…」 やってきたアキラを目にしてポツリと言葉を出すカズキ。 「あぁ…うん」 短く頷くアキラ。 「…今、色んな意味で、裏切られたような…そんな気分っス…」 「…まぁ、この前ン時、撮影は当分先って言ったもんな…オレ」 しんみり言うカズキを見てそう答える。 「…本当の本当に、この撮影が最後なんスか?…もうBOUSには来ないんスか?」 アキラを見つめ問う… 「…うん、もう来ないよ」 アキラはその瞳に押されつつも答える。 するとカズキは… 「辞めないでください…サクヤ先輩がいなくなるなんて嫌です」 ストレートに引きとめてくる。 「…カズキ」 アキラは困って顔をしかめる… この状況で言われても…無理なことだから… 「…いいっス、忘れてください…馬鹿な事…言ってます…俺」 その表情を見て、アキラを困らせてしまったと…カズキは言葉を打ち消す。 「…カズキ」 「すみません…なんか、色々ショックで…テンション低くて、台本見たら…サクヤ先輩を、殺すシーンとかあるし…」 台本を開いてそう伝えてくる。 「終撮だからな…嫌な役やらせて悪いな…」 アキラはカズキの近くに座り、そう謝る。 「いえ、そんな…先輩の最後の撮影にかかわれるなんて光栄っす…けど、こんな内容…うまく出来るか不安で…」 表情を曇らせる。

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